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japanese.china.org.cn |14. 04. 2025

持続可能な未来のための日中韓イノベーション協力の重要性=小林正弘氏

タグ: 日中韓 情報通信 経済協力 イノベーション
中国網日本語版  |  2025-04-14

文=小林正弘 

清華大学法学博士 

Genuineways Law Firm パートナー

写真日中韓三国協力事務局(TCS)が提供

4月11日、筆者は第7回「日韓情報通信大臣会合」に合わせて蘇州において開催された「日韓情報通信イノベーション対話及び産業マッチメイキングイベント」に参加し専門家交流セッションにて「持続可能な未来のための日中韓イノベーション協力の重要性」をテーマに講演し、その後、蘇州工業パークを視察する機会に恵まれた。講演の内容は以下のとおりである。

写真は日韓三国協力事務局(TCS)が提供

私は北京に住んで16年以上になる。その間、清華大学で法学博士を取得、日本国際協力機構(JICA)北京事務所でのインターンを経て、現在まで現地知的財産法律事務所にて、主に中国現地日本企業の知的財産権保護業務に携わってきた。

ここ数年は北京も夏に気温が40度になることも珍しくなくなった。ソウルや東京はどうだろうか?異常気象、山火事、台風、洪水など自然災害による甚大な被害が全世界で頻発している。このまま気候変動問題を放置すれば2030 年には気温上昇の限界値の1.5℃に達するという試算があり、2030 年が気候危機回避のデッドラインとされている。本来であれば全世界の国々が協力してこのデッドラインを回避することを最優先に行動すべき時である。

しかし、戦争が今も続いており、尊い人命が失われるだけでなく、二酸化炭素も膨大に排出されている。さらに、トランプ大統領は本年1月に地球温暖化対策の国際的な枠組みであるパリ協定からの離脱を発表し、また現在はアメリカ第一主義に基づく関税政策によって世界経済が大混乱に陥っている。最近のニュースでは対中関税が合計145%になったと報道された。中国経済が低迷すれば、その影響は当然、日本、韓国を含む周辺諸国だけでなく、全世界に及ぶことになる。他国の利益や人類の持続可能な未来の犠牲の上に、自国の繁栄を築くことは明らかな誤りである。世界を分断する際限のない軍事的競争や弱肉強食の経済的競争の時代から、国際協調を通じた全人類の共存共栄を目指す人道的競争の時代に入っていかなければ人類に未来はない。

かつて中国の周恩来総理は日中関係について「中国と日本は地理的に近いから永遠に仲良くして助け合わなければならない」と常々、姪の周秉徳女史に語っておられたそうだ。

これは日中韓の三国すべてにあてはまる考え方だと思う。歴史的にも、三国は2000年以上にわたる友好交流がなされ、日本は中国、韓国から文化的な恩恵を受けて来たにもかかわらず、日本が中国、韓国を含むアジアの国々を侵略し植民地支配した悲しい歴史は決して忘れてはならない。

「北東アジアは一つの環境共同体である。」これは三国の環境大臣会合での一致した共通認識である。三国間の外交関係が悪化した時でも環境協力をめぐる対話だけは継続されていた。世界が混乱に陥る中、隣国であり環境共同体である三国は人類の持続可能な未来のために、共に助け合い協力してアジアの安定と繁栄のために貢献していく使命があると思う。今こそ世界の温室効果ガスの排出量の3割を占める日中韓三国が連携し、団結して温暖化対策、カーボンニュートラルへの意欲的な挑戦を進める時である。

そこでカギとなるのが、グリーン産業、カーボンニュートラル分野での日中韓三国のイノベーション協力だ。ここにはとても大きな可能性が秘められていると思う。その理由を以下3点あげさせて頂きたい。

第一に、日中韓はいずれも高いレベルのイノベーション力を備えていること。2024年10月に公表された世界知的所有権機関(WIPO)のグローバル・イノベーション・インデックス(GII:GlobalInnovation Index)2024によると、世界でイノベーションが進んでいる国と地域として、アジアでは、シンガポール(4位)、韓国(6位)、中国大陸部(11位)、日本(13位)、中国・香港地区(18位)が上位にランクインしている。また、過去10年の間に最も急速にランキングが向上した国として中国が挙げられている。中国は知的財産強国政策を推進し、2035年までに知財総合競争力で世界トップレベルになることを目指しており、その成果が着実に実ってきている。

第二に、日中韓はいずれも多くのカーボンニュートラル関連特許を蓄積している。2022年のPCT国際出願においてカーボンニュートラル関連特許のスコアを国別に集計したランキングでは、1位 中国、2位 日本、3位 アメリカ、4位 韓国となっている。

第三に、特許を持っているだけで、それを活用する場がなければ、価値を生まないが、中国には14億人の巨大マーケットがあり、研究開発そして知的財産権を保護するための法制度が整ってきている。電気自動車、ティックトック、ディープシークなど、中国発のイノベーションが世界に衝撃を与えた。これは中国が単なる「世界の工場」から「イノベーションの発信地」へと変貌をとげるための産業構造改革を行っており、その成果が着実に実っていることを示すものである。

このように、日中韓が蓄積したイノベーション力とカーボンニュートラル関連特許の技術を中国マーケットに投入し、日中韓三国のイノベーション協力を進めることは、地球温暖化対策をより効果的にし、人類の持続的な未来のための大きな力となるだけでなく、競争の激しい中国マーケットで生き残ることは自国の新たな産業発展や国際競争力の強化にも繋がっていく。

では実際にどうすれば三国イノベーション協力ができるだろうか?そのためには、まず自ら中国を訪れてありのままの中国の発展状況を把握した上で、中国の消費者や企業のニーズを知る必要がある。また、実際に中国を訪れてみると、カーボンニュートラル分野だけでなく、デジタル化やロボットなどでの経済協力の可能性も実感できるだろう。

2024年12月、私自身も宮城県県会議員に同行して、長江デルタ地域に位置する上海、南通、南京、そしてここ蘇州を視察する機会に恵まれた。

蘇州市相城区の高鉄新城は最先端のデジタルスマート都市として著しい発展が見られた。試験区内では、自動運転タクシー、バス、無人清掃車などが運用されており、24時間リアルタイムで車、歩行者、バイクの状況を立体的なデジタル映像で把握できる交通情報コントロールシステムセンターがあり、最先端の通信技術に大変に驚かされた。このようなシステムは自動運転関連の研究開発を行う外国企業も利用でき、実際に日産自動車も研究開発を行っているようだ。

蘇州市の無人運転バス(小林正弘氏が撮影)

蘇州工業園区の計画図(左)と現在(右)(小林正弘氏が撮影)

南通市では、現地の日本企業を訪問する機会を頂き、日本式の工場管理モデルを用いつつ現地中国人スタッフの考え方を尊重し、現地で開発および販路の新規開拓などを行っている様子が印象的であった。生活面でも治安はとても安全であり、出前アプリやライドシェアアプリなどもとても便利で、中国語があまりできなくても食生活や移動に困らず、快適に生活できているとの声も伺った。これは、私の北京での生活実感とも重なるものであった。

そのほか、私自身がデジタル面で特に便利だと感じるのは、携帯で処方薬を注文し30分ほどで自宅まで配達してくれるサービスだ。病気で体がだるい時に、外出しなくても薬が届くのはとても有難い。また病院の受付や検査結果の受取、支払いなどが機械化されており、便利である。使い方がよくわからないといった場合には、機械の隣にサービススタッフがおり、丁寧に操作を教えてくれたり、スタッフが対応する窓口もあり、老人などデジタル弱者にも配慮したデジタル化が行われている印象を受けた。

環境共同体である三国が地球温暖化対策という人類の存亡にかかわる問題の解決のためにイノベーション協力を行うなかでパートナー意識が芽生え、他国を実際に訪れ生活するなかで歴史、文化、社会への理解が深まり、お互いへの尊敬が生まれると思う。そして、共同研究、共同開発に携わった方々がそれぞれの国に経験を持ち帰り、地域の発展に活かすことも可能であろう。

このような三国間交流によって、それぞれの国の民衆が気候変動対策やデジタル化の恩恵を受けることができれば、相互信頼が深まり、EUのようなアジア一体化への重要な基礎にもなる。三国間の防衛費の削減、アジア地域の安定にもつながり、教育、イノベーション、社会福祉などへより多くのリソースを投入することも可能になる。

人類的な視点に立ち、日中韓三国イノベーション協力が進められ、アジアの繁栄と世界の平和に貢献がなされる事を切に願う。

最後に、今回の講演の機会を下さった日韓三国協力事務局(TCS※)李熙燮(イ・ヒソプ)事務局長をはじめ本会議の開催にご尽力されたすべての方々に心から感謝したい。

日韓三国協力事務局(Trilateral Cooperation Secretariat,TCS)とは、日本、中国、韓国の北東アジア三国が域内の平和と共同繁栄のビジョンを実現するために2011年9月大韓民国ソウルに設立した政府間国際機関。

「中国網日本語版(チャイナネット)」2025年4月14日