③「氷を割る」のも「氷を融かす」のも、生易しいことではなかった。戦略的互恵の構築には、行動を重んじなければならない。
「三尺の氷は一日の寒さではならず」という。いわゆる「政冷経熱」の現象は不正常であり、人々の願いに沿うものでもない。昨年、日本は内閣が交替し、これを契機に、双方の努力を経て中日両国は、両国関係に影響を及ぼす政治的な障害を克服することで意見が一致し、両国関係を改善する情勢が出現した。安倍首相の「氷を割る旅」と温家宝総理の「氷を融かす旅」は、両国関係がまた新たな出発点に立ったことを示している。
双方はすでに、戦略的互恵の基本精神とその内容、協力の課題について共通認識に達したが、戦略的互恵を実現するためには、双方が政治的な相互信頼の基礎の上に、実際行動を取る必要がある。 この35年の経験と教訓 第一に、中日両国は隣国であり、善隣友好こそが唯一の正しい選択である。
「和すればともに利あり、闘えばともに傷つく」と、歴史の経験が教えている。この教訓は、この35年で再び証明された。両国の民衆間の感情は、歴史の経験にその源を発しているし、現実を反映してもいる。双方は大局に着目し、こうした感情を大切にして、うまく教え導かなければならない。
第二に、三つの重要文献の原則と精神を遵守することが、両国関係を健全に、順調に発展させるカギだ。原則を守れば両国関係は順調に発展することができ、原則にそむけば両国関係が必ず波瀾に遭遇する。このことは、実践が証明している。
第三に、両国関係に影響を及ぼす敏感な問題は、これを非常に重視して、直ちにうまく処理しなければならない。
中日善隣友好は、友好の伝統を受け継ぎ、不幸の歴史を直視する基礎の上に打ちたてられたものだ。問題が起こったのはほとんどが、歴史を直視しなかったことが原因となっている。歴史を尊重し、歴史を直視するのは、未来に目を向けることに着眼しているからであり、仕返しをするためでもなく、恨み続けるためでもない。
台湾問題は、中国の統一大事業と核心的な利益にかかわることである。歴史的に台湾問題はずっと中日間の敏感な問題となってきた。原則を堅持し、言行を慎み、「台湾独立」勢力が中日関係を破壊し、この地域の平和を危うくすることを許してはならない。
釣魚島問題と東中国海問題は、互いに関連しながらも異なる二つの問題である。領土の主権と海洋権益にかかわる問題なので、双方にとってともに非常に敏感な問題である。双方は大局を念頭に置いて冷静に対処しなければならない。喜ばしいことに、双方はすでに、東中国海の共同開発という大きな方向で一致を見た。この大きな方向を堅持し、辛抱強く交渉すれば、必ず「ウィン・ウィン」の結果を得ることができる。
第四に、大所高所から遠くを見つめ、時代とともに進み、新しい視点から主観的、客観的に世界を観察し、ともにアジアを振興するためにより多く貢献する。ともにこの地域の協力を促進し、共同の繁栄を実現するために多くの貢献をすることだ。
第五に、「誠」と「信」を本とし、政治の相互信頼を増進する。
中国と日本の二大民族は昔から「誠」(誠実)と「信」(約束を守る)を尊んできた。平たく言えば「言ったことは守る」ということである。多くの日本の友人はよく『論語』の「信なくば立たず」という言葉を引用する。それで自分を律し、互いにそうするよう勉めてきた。胡錦涛主席が提唱している「八栄八恥」(八つの栄誉と八つの恥)の一つは「誠実に約束を守ることを栄とし、利を見て義を忘れることを恥とする」である。
35年前、中日国交正常化交渉が大成功したときに、周恩来総理は「言ったことは必ず信があり、行いは果断である」を強調した。これに対し田中角栄首相は「信は万事のもと」と答えた。
「誠」と「信」は、中日国交正常化の基礎でもある。「誠」と「信」を本にして政治の相互信頼を実現することは理想の境地ではあるが、千里の旅も一歩から始まる。新しい出発点から前に進む中日関係も、「誠」と「信」から始めなければならない。(元駐日中国大使 徐敦信。1993年から駐日本中国大使をつとめ、その後、全国人民代表大会外事委員会の副主任をつとめた徐敦信氏は、日本に友人が多く、「日本通」として知られる。現在は、中国国際問題研究基金会理事長)
「人民中国」より2007年9月27日