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大メコンに生きる(6)人間と象が織りなす世界
発信時間: 2009-07-03 | チャイナネット

全身が真っ白な象を三頭擁するミャンマーの人たちは、そのことを大変誇りに思っている。しかもこの三頭の白象は同じ群れの出身である。数年前に発見されたとき、同じ群れのほかの象たちがこの三頭の象と離れたがらなかったため、ミャンマー政府は群れごと首都ヤンゴンに運ぶと、象たちのための王宮のような住まいを造り、手厚く世話をした。この象たちは、許可がない限り地元の人も勝手に参観することはできない。見ることができたとしても、数十メートルも離れたところから眺めるだけで、撮影も禁止されている。

象は神の化身であり、偉大な戦士でもある。象の群れは、古代瀾滄江―メコン川流域各国の軍隊の「戦車団」であった。戦時には国王も将軍も象に乗り、鉤状の矛を手に戦った。敵に会うと、象は互いにぶつかりあい、力の強い方が相手をよろめかせる。象の力が強く、戦の腕の優れている方が勝利を収めることになる。

象は人類の友として、後世に残る数々の文明の成果にも貢献している。世界に広く知られるアンコールワットの巨石を運んだのも、メコン川のほとりに燦然と輝く寺院に使われている巨大な木材を森から運んできたのも、象の仕事である。瀾滄江―メコン川流域の古代文明はみな、象の助けによって作られたものであるといっても過言ではない。

人間が象とともに作りあげたこれらの傑作は、世界的にも価値ある文化遺産を代表するものである。人類は象から得た貴重なインスピレーションを芸術に生かし、アンコールの岩にその忘れ難い象の彫刻を刻みこんだ。アジアゾウは、いまや世界芸術史上の代表的なイメージの一つとなっている。

象に乗って、のんびりとアンコール遺跡を散策する観光客

しかし、千年以上にわたる人類の象狩り、そして生存環境の悪化により、象の数は減少し続けている。人類も象が絶滅の危機に瀕していることに気づいてはいるが、これは一つの種の絶滅のみならず、古代の輝かしい象文明が今後は生きた実物を失い、テキスト上のみの記憶にとどめられることになるであろうことをも意味している。

現在、大メコン川流域の国々は、再び象が森に戻れるようにと、相次いで象狩りを禁じるようになった。

ロンミアオさんも、とうに象狩りをしなくなっている。現在では、千年にわたって受け継がれてきた象使いの技を村の若者たちに教えているにすぎない。観光業の発達したタイでは、技を身につけた象使いは、食べてゆくには悪くない仕事である。

今日のタイでは、象は専門的にパフォーマンスを披露する「曲芸象」として訓練される。象は頭のいい動物で、生まれつき曲芸の才が備わっており、行く先々で人々に囲まれ、熱烈に歓迎される。スリン県の象使いたちは、ジプシーのように象を連れて各地を巡り、パフォーマンスを披露することで生計を立てている。

昔に戻ったように

アンコールの古戦象台の前にある象の彫像。 彫刻用の石はすべて象が運んできたもの

2006年の象祭りで、ロンミアオさんは野外の伝統的な象狩りの様子を披露してくれた。野生の象には、調教された「家象」が扮した。

象狩りの道具は長い間使われていなかったため、改めて作らなければならなかった。もっとも重要な道具は紐である。象の力は非常に強く、丈夫な紐がなければいうことをきかせることができない。一本の紐を編むために三頭の牛の皮が要るこの紐は、百年使うことができるほど丈夫だが、重いうえに硬く、普通の人にはなかなか使いこなせない。

昔、スワイ族の象狩りは、囲いこんで捕獲するという大掛かりなチームワークによるものであった。狩りのたびに、50頭以上の家象にあらゆる物資を載せて出発する。一回の活動期間は短くても3カ月ほど。長いときには、持っている食料をすべて使い切るまで戻らない。ハンターたちが森の奥深くへと向かうときには、彼らの家はドアも窓も完全に閉め切られる。夫が帰るまで妻たちは決して家を出ないのだという。

象祭りで古代の象戦を披露する役者と象(新華社)
象狩り隊では、象使い大師が指導教官となって進む方向を決める。ロンミアオさんの祖先は象狩りの達人であり、16歳から象狩りを始めた彼自身も、30歳を過ぎたころには捕獲した野生の象はすでに40頭を超え、40歳のときには象使い大師の称号を授けられた。

それからほどなくして捕獲禁止令が発表され、ロンミアオさんはタイで最後の象狩り大師となった。  ロンミアオさんは若いころの姿さながらに、象に乗って出発した。そのさまは天から降りたった神のごとくである。

川の流れが周囲を巡っているジャングルの周辺には、食物と水が豊富にあるため、よく野生の象の群れが活動しており、もっとも野生の象の群れを見つけやすい場所とされている。

象狩り隊は、向かい風の中を進んでいかなくてはならない。追い風を進んでゆくと、風下にいる野生の象は、人間と家象の匂いを嗅ぎつけて遠くに逃げていってしまうからだ。

タイ南部アユタヤ県のアジアゾウ。洪水がもたらす細菌に感染しないよう、足に薬を吹きかけられている(新華社)

象狩り隊は集団で進むわけではなく、先頭に一頭の「哨象」(案内役)を置く。その上に乗るのは経験豊富な象使いである。彼は風向きを見分け、風に乗って漂ってくる匂いで野生の象の群れの場所を判断する。彼が前方の象の群れを見つけて笛を鳴らすと、1、2キロほど離れたところにいる象狩り隊がそれを聞きつけ、ひそかに後を追う。

ロンミアオさんは、象狩り隊を指揮しながら向かい風に向かって進んでゆく。ゆっくりと象の群れに近づき、両側から取り囲むようにして陣を張る。

ある程度の距離まで近づくと、ロンミアオさんは象狩り隊に一斉攻撃の合図をし、一挙に象の群れを追い散らす。

象たちは一目散に逃げ出すが、逃げ遅れた母象と子象が取り囲まれる。象使いたちは紐を象の足にかける。そして、数十メートルの長さの紐を全部投げ出し、驚き慌てふためく象が狂奔するに任せておく。やがて紐がジャングルの木にからみつき、疲れ果てた象はなすすべもなく生け捕りされる。

象と象使い
このような象狩りの方法は、野生の象の体を傷つける心配がなく、象使いや家象にとっても比較的安全な方法であるといえる。しかし、獰猛な野象であれば必死になって抵抗する場合もあり、危険も伴う。このときに求められるのがハンターの勇気と経験、知恵である。ロンミアオさんは数十年におよぶ象狩り生活で、危険にさらされたことも何度かあるが、決してひるむことはなかった。今回のパフォーマンスで、80歳のロンミアオさんの腕前を拝むことができた。30年の時を経て、今ふたたび彼の人生の輝きが私たちに披露されたのである。

象を捕獲することよりも大切なのは、野生の象を従順な家象に飼いならし、教養ある家族の一員にすることである。これこそが象使いの最高の技と力である。ロンミアオさんは、強情な手ごわい野生の象を、最短15日間で従順な家象に飼いならした経験を持つ。ロンミアオさんはタイの誇りである。

伝統的な象文化を継承してゆくため、タイ政府は象一頭あたり毎月8000バーツ(1バーツ=約3円)の補助金を支給している。象使いはこのお金で象を育てている。これによって、かつて象狩りで生計を立てていた象使いは今日にいたっても自分の象を所有することができ、象祭りのような伝統祭りも続いている。

毎年11月の乾季になると、スリン県生まれのすべての象が、いかに遠く離れたところにいようと主人といっしょに帰省し、象祭りに参加する。象のために人々が行うこの祭りでは、地元の通りにさまざまな果物が並べられ、象はそれを好きなだけ食べることができる。数百頭の象が盛装をまとい、パレードやさまざまなパフォーマンスをする。

これは、象と人とがこころゆくまで大騒ぎする盛大なパーティーである。もちろん主役は象である。人々はまるで昔に戻ったように、象を囲んで踊り続ける。(0812)

 

人民中国インターネット版 2009年7月3日

 

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