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中米経済関係の行方

5月末、大連の大学二校を訪問する機会がありました。そこで、大手米国企業が、大学と提携し、教育関連資材や奨学金などを提供し、人材育成プロジェクトを大胆に試みている現場を視察しました。こうして育った卒業生のうち優秀な人材が、その米国企業に就職しているとのことでした。米国企業は、中国の人材育成を通じ、中国でのビジネス戦線で攻勢をかけているのだと、その長期的経営戦略に感心したものです。

中国米国商会(商工会議所)が昨年5月に発表した2006年版白書によると、在中米国企業の89%がビジネス活動を増加させたと回答しています。米国企業の中国ビジネスに対する意欲が高いことがわかります。

課題も増える

中米経済関係は順調に拡大してきましたが、同時に課題も増えてきています。最近、この課題が大きくクローズアップされています。

例えば、貿易量は急拡大しましたが、米国の対中貿易赤字も拡大し、2006年には1443億ドルに達し、中国貿易黒字全体の81.3%を占めるまでになりました。このため米国議会や産業界から、人民元の大幅切上げや対中強硬措置を求める声が高まってきています。

実際、今年4月、米国は、知的財産権関連で中国をWTOに提訴(注1)しました。対中進出した米国企業が中国でのビジネスで収益を上げている一方、米国内企業は中国の輸出で被害を蒙っていると主張しているのです。

中米貿易摩擦は、中米両国と緊密な経済関係にある日本にも影響が出ないとも限りません。最近の中米経済関係は両国間にとどまらず、世界経済にとってますますホットな話題となってきています。

切っても切れない関係

1979年、中米両国は国交を正常化しますが、中国側の統計によれば、2006年の両国の貿易額は、当時の実に106倍(年率平均18.9%増)に拡大しています。両国はともに、第2の貿易相手先となっており、切っても切れない関係にあるといってよいでしょう。

また、直接投資でも、米国の対中投資額(実行ベース)は2006年末の累計で540億ドル(注2)となり、対中進出した米国企業は、日本の2倍の5万余社とされています。

こうした緊密な経済関係にある中米両国間にどんな課題があるのでしょうか。今年5月末、ワシントンで、中米間の通商問題などを包括的に協議する第2回中米戦略経済協議(SED)が開かれましたが、ここで議論されたことや思惑などから、両国間に横たわる課題を見てみましょう。

現代の「鴻門の会」

ワシントンで開かれた第2回SEDで握手する中国の呉儀副総理(右)と米国のポールソン財務長官

SEDの中国代表は呉儀国務院副総理で、米国代表はポールソン財務長官でした。開会式では、ニクソン大統領の訪中をお膳立てし、その後の中米国交正常化の基礎を築いたキッシンジャー氏が基調講演しています。

呉儀副総理にとってSEDは、楚の項羽に招かれ「鴻門の会」に赴く劉邦に似た心境にあったのではないでしょうか。思惑が秘められた宴会に、そうとわかっても敢えて出て、面子と威信を保つという姿勢でもあります。

米国のWTO提訴にもかかわらず、中国は第2回SEDに向け、金融、航空分野などの市場開放を表明し、米国の人民元切上げ圧力や対中貿易摩擦を軽減・回避しようとしました。

すなわち、人民元変動幅を0.3%から0.5%へ拡大する、米国製品の買付けミッションを派遣する(300億ドルの買付け契約に合意した)、QFII(有資格外国機関投資家割当)(注3)を百億ドルから300億ドルに増額する、米国のブラック・ストーン集団へ30億ドルを投資するなど、米国にはかなりの手土産を用意したといえます。

ところが、SEDの結果に、米国議会や産業界は満足してないとの報道が目立ちました。人民元切上げ問題や知的財産問題などで意図した思惑が外れたようです。こうした中米貿易摩擦の象徴的な問題に対し、中国はそれ以上の目立った譲歩はしませんでした。

さて、咸陽を落としたという戦功を手土産に「鴻門の会」に出た劉邦は、「剣の舞」で項羽方から命を狙われますが、張良の気転に助けられ、無事脱出します。呉儀副総理が出席したSEDを「鴻門の会」にたとえるのは不謹慎かもしれませんが、SEDでは米国議会や一部米国産業界の「剣の舞」をうまくかわしたようです。

ただ、より短期的な利益を優先するとされる民主党の通商関係者の影響力が増す米国議会で、今後、何らかの対中通商法案が成立する可能性は少なくないようです。第3回SEDは、果たして「四面楚歌」となるのでしょうか。

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