雲河都市研究院
1.中国映画マーケットが2年連続で世界第1位に
新型コロナウイルスパンデミックで大きな打撃を受けた映画興行は、2021年に回復基調となった。但し、回復には地域差があった。北米(アメリカ+カナダ)の映画興行は2020年の22億ドルから45億ドルに倍増した。日本の映画興行市場は前年の13億ドルから15億ドルへと微増に留まった。
中国の映画市場は、前年の30億ドルから73億ドルへと急伸した。とくに、2021年の春節(旧正月)に、78.2億元(約1,564億円、1元=20円で計算)の映画興行収入で、同期間の新記録を樹立し、世界の単一市場での1日当たり映画興行収入、週末映画興行収入などでも記録を塗り替えた。
東京経済大学の周牧之教授は、「2021年は中国のゼロコロナ政策が最も成功した年であった。人々は普通に映画館に通うことができた。結果、前年度比で中国の映画観客動員数はプラス112.7%と倍増し、中国の映画市場は北米の1.6倍に拡がり、2年連続で世界最大の映画興行市場を維持した」と指摘する。
図12021各国・地域映画興行収入ランキング トップ20
出典:MPA(Motion Picture Association)『THEME REPORT 2021』より雲河都市研究院作成。
2.映画興行収入世界ランキング
好調なマーケットに支えられ、2021年映画興行収入世界ランキングトップ10においても、中国映画の『長津湖』、『こんにちは、私のお母さん』、『唐人街探偵 東京MISSION』がそれぞれ2位、3位、6位にランクインした。
白井衛ぴあグローバルエンタテインメント(株)会長は、「世界のエンタテイメントがコロナパンデミックの影響を大きく受ける中、中国の映画市場は勢いよく回復を続けている。今年も世界映画興行収入ランキングベスト10に3作品が入り、そのすべてが5億ドル以上の興行収入をあげている」とコメントする。
希肯ぴあの安庭会長は、「映画は演劇と同様、消費者にとっては鑑賞する場へと足を運ぶ必要のあるエンタメである。消費者の熱意は作品の品質と影響力とに大きく左右される。その意味では、市場の規模と持続性は、供給サイドの質量によるものが大きい。動画がいつでもどこでも見られる現状にあって、映画産業は、観客に足を運ぶ理由を与える努力をしなければならない」と語る。
『長津湖』、『こんにちは、私のお母さん』、『唐人街探偵 東京MISSION』の興行収入の殆どは、中国市場の貢献に依った。これについて周牧之教授は、「一国のマーケットだけで映画興行収入世界ランキングの第2位、第3位そして第6位に就いたことは中国市場の巨大さを物語っている。しかし同時に、これは中国映画のローカル度も表している。中国映画の国際化はこれからの大きな課題であろう」とコメントしている。2021年には『唐人街探偵 東京MISSION』が日本、オーストラリア、ニュージーランドなどの国で上映されたものの、海外での稼ぎは同映画全興行収入の0.2%しかなかった。白井衛会長は、「今後は、より世界的な作品の制作や中国発のアニメ作品の制作が望まれる」と期待した。
中国は、海外の映画にとっても大きなマーケットになっている。2021年映画興行収入世界ランキングの第5位の『ワールド・スピードジェットブレイク』、第8位の『ゴジラvsコング』は其々中国で、2.2億ドル、1.9億ドルの興行収入を稼ぎ出した。この二つの映画の全世界興行収入に占める中国マーケットのシェアは、其々29.9%、40.1%となった。
こうした背景下、近年ハリウッドは中国マーケットを意識する映画作りをするようになっている。同時に、中国出身の監督や俳優はもちろん、中国資本もハリウッド映画制作に進出している。中国資本の参入で『レヴェナント: 蘇えりし者』や『グリーンブック』のようなアカデミー賞作品が生み出された。周牧之教授は、「このような国際交流は中国映画のレベルアップに大きく寄与している」と評価する。
図22021映画興行収入世界ランキング トップ10
出典:BoxOfficeMojo.comデータセットより雲河都市研究院作成。