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ウェンナン先生行状記:まほらまの南京生活⑦
発信時間: 2009-07-10 | チャイナネット

◇幅広いテーマと鋭い問題意識◇

学生たちの日本語の会話力や、書かれた論文の日本語にほとんど問題はない。しかし、先生方と対面しやや緊張気味だった。書いた論文の動機や趣旨を説明し、中国人の先生方も日本語で学生に質問する。やがて私が担当した学生の番になった。私の方をチラと見たので、「さあ、ゆっくり落ち着いて」との思いを込めて、軽く肯いた。なんだか、こちらも緊張感を共有しているようだった。学生は2人とも動機や趣旨を的確に説明し、心配するほどではなかった。

学生が書いた論文のテーマは、「歌舞伎における日本人の美意識」「若者の学校内暴力」「日本人若者の友人関係希薄論」「旧日本軍の中国人強制連行」「日本文学に対する白居易の影響」「『ダンス ダンス ダンス』から見た村上春樹の苦境」とさまざまである。日本人大学生の卒論にひけをとらないテーマと内容である。日本人の美意識を歌舞伎に見た女子学生の論文は、日本人の私にもはっと思わせる指摘があり、実に細かい部分まで分析した秀作だった。

ほかの組の論文も、「日本特許明細書の翻訳作業の問題点」「高齢化社会保障の相続税問題」「日本的企業文化の考察」「日本の専業主婦層を支える要件」「ニートになる原因と対策」「中日における生命保険の比較」など、実に幅広いテーマと鋭い問題意識である。卒業論文として学内にとどめおくだけでなく、多くの日本人に読んで考えてほしいものばかりである。機会があり、条件が許されれば、ぜひ多くの日本人にも公表してほしいと思った。

◇目から出た汗が止まらず◇

卒論審査会ではその場で採点し、各先生方が講評を書き組長の先生がそれをまとめた。私の採点は、通常のレポートや作文より少し辛めになった。卒業祝いに点数を加算してもよかったなと考えたが、人生評価は点数だけではない、と考えそのまま提出した。

その日、夕方から行われた“謝恩会”で、学生は一区切りついた安堵感からか、ビールを飲みながらかなり陽気になった。指導した学生からも「先生、お世話になりました」とビールを注がれ、乾杯した。私もほっとした気分になった。審査会が終わって2週間後、卒論を指導した学生から連絡があった。

「先生にご馳走をしたいのですが、都合のよい日はいつですか」と訊いてきた。これまでの授業や卒論指導のお礼をしたい、という。先生が教室で授業をしたり、学生の卒論を指導するのは当然のことだ、と婉曲に辞退した。

「先生、私たち通訳のアルバイトをしたので、お金があるんです」

この言葉に胸が詰まり、断れなくなった。約束をした日は、初夏にしては暑い日だった。学生は鍋料理を注文した。熱くて美味だった。目から出た汗をいくら拭いても止まらなかった。

◇北風に向かって飛び出そう◇

学生たちが作った卒業アルバムに、山本有三の一節を借りて次のようなメッセージを送った。

心に太陽を持て 唇には歌を持て

羽毛が生え揃った野鳥でさえも

巣立ちの飛翔は勇気がいるもんだ

ヒトに翼はないけれど 両手をいっぱい広げよう

南からの追い風よりも 冷たい北風に向かって

夢と希望と自信を胸に さあ 勇敢に飛び出そう

そうすりゃあ 何が来たって平気じゃないか

小鳥でも飛行機でも離陸時には向かい風が必要だ。これからの人生の中では、南からのぬくぬくした追い風のような「濡れ手で粟」や「心地よい甘言」が、たびたび誘惑するだろう。しかし、そんな風に乗っていたのでは、いつか必ず失速して墜落する。肌に刺さるように冷たくて、いっときばかり苦労したって、向かい風ならいくら強くても失速はしない。強ければ強いほど急上昇も可能だ。こんな人生を堂々と歩もうじゃないか。メッセージにそんな意味を込めた。

(写真はすべて南京大学構内で筆者写す)

「北京週報日本語版」より 2009年7月10日

 

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