「鑑真東渡」では全編で中国の古箏と日本の琴が使われている。ルーツが同じで異なる発展を遂げた2つの国の楽器は、時に泣くように、時に訴えかけるように、あるいは意気軒高に情景を描写する。このシーンでは栄叡が亡くなる前に鑑真との別れを惜しみ、果たせなかった日本への渡航の無念と望郷の念を歌い上げている。琴を演奏した松村エリナさんは日本の民謡を歌い死にゆく栄叡を表現。劇中で最も感動的な瞬間を迎えた
作曲を手掛けた唐建平さんは「有名な揚州民謡の『茉莉花』は、プッチーニのオペラで世界中に知られるようになりましたが、『鑑真東渡』も『抜根芦柴花』など、江蘇民謡のエッセンスを取り入れた曲を使っています」と音楽の魅力を語る。失明した鑑真が海風を受けながら歌う場面の望郷の念が色濃く反映された『抜根芦柴花』のメロディーは、観客の共感を大いに誘った。さらに日本人俳優の弾き語りや大明寺の仁如法師の読経からは、国境を越えた芸術のコラボレーションを体感するとともに、両国を結んだ鑑真の偉大な功績を改めて感じた。