中日両国> |
japanese.china.org.cn |20. 09. 2022 |
中国の脱炭素政策と今後の課題=松野豊氏
文=松野豊・日中産業研究院院長
2020年の国連総会において、習近平国家主席が中国のCO2排出量ピークアウト(2030年前)とカーボンニュートラル実現(2060年前)を宣言したことは、世界を非常に驚かせた。こうした目標を提示することは大きなチャレンジだと思われたからである。
しかし世界は、中国のこの宣言を中国経済の持続的経済成長のための正しい判断だと歓迎している。なぜなら世界は今地球温暖化の脅威に直面し、大国としての中国が脱炭素へのリーダーシップを発揮してくれることを望んでいるからである。中国はこの宣言によって世界からの期待に応えるとともに、自国の産業構造転換も促進することができ、「生態文明」の実現に一歩近づくことになるだろう。
2022年7月7日、内蒙古自治区の満帰貝爾茨河国家湿地公園の夏の風景(ドローンで撮影 新華社記者・貝赫)
ここ十年、中国の環境問題対策は大きな進歩を遂げた。中国は過去の5カ年計画で、単位GDP当たりのエネルギー消費量やCO2排出量の削減目標を定め、概ねこれを達成してきた。特に環境汚染防止に関わる法整備が進んだことは注目に値する。例えば、2014年には環境保護法や大気汚染防止法が改正・強化され、顕在化していたPM2.5(微小粒子状物質)による汚染問題も改善に向かった。法整備体系だけを見れば、中国はすでに世界の最前列に位置している。
一方で中国は、今後しばらくは中程度以上の経済成長を必要としており、経済成長と脱炭素を含む環境対策の両面を実行していかなければならないのである。筆者は、中国がこの2つを両立させていくためには、大きく以下の3つの課題をクリアしなければならないと考える。
第一は、環境を汚染せずCO2も多く排出しない産業を育成していく必要があることである。中国の場合、太陽光や陸上風力などによる再生可能エネルギー産業がここ十年で大きく発展し、すでに世界をリードしつつある。また産業の低炭素化のために排出権取引市場という市場メカニズムを備えた仕組みも開始した。その結果、2030年までのCO2排出量のピークアウトは十分に可能であり、これによる経済成長への影響は限定的だと思われる。
2021年7月13日、内蒙古自治区鄂爾多斯市伊金霍洛旗にある天驕グリーンエネルギー50万キロワット太陽光発電所(ドローンで撮影 新華社記者・劉磊)。同発電所は石炭採掘沈下区生態改善太陽光発電のモデルプロジェクトである。
第二の課題は、エネルギー確保と環境対策・脱炭素とのバランスである。エネルギー確保の観点からは、既存の石炭火力発電を使わざるを得ない状況も生じている。
中国は新エネルギー産業の発達で、再生可能エネルギーの生産コストが石炭火力と同等レベルにまで来ている。それでもエネルギー生産の安定性や送電網の問題などで、まだまだ石炭火力を全面廃止することはできない。
第三は、省エネルギーや脱炭素を含む環境対策が新たなステージに入り、地域全体の最適化を指向していかなければならないことである。
既存の工業園区の低炭素化のためには、おそらく使用エネルギーの転換だけでは不十分で、園区全体の産業構造を見直し、低炭素化していく必要がある。日本も1970年代のオイルショックの際に、産業構造をそれまでの装置産業から省エネルギーのエレクトロニクス産業などへの転換に成功した経験がある。中国も世界的な脱炭素の動きを産業構造転換の大きなきっかけにしていくことが重要だ。
中国は近年、都市化率向上により経済発展は進んだが、今後既存大都市の低炭素改造も必要となっている。中国は、ここに挙げた3つの課題をクリアして、今後世界に冠たる低炭素国になっていくだろう。特に3つ目の課題は、日本にも経験と成熟した技術がある。筆者は今後、工場や都市の改造が日中産業協力の大きな柱になっていくことを期待している。
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2022年9月20日