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japanese.china.org.cn |28. 09. 2023 |
平和と発展をもたらした巨大構想
横浜国立大学名誉教授 村田忠禧(談)
この10年間における「一帯一路」の動きで私が主に注目したのは、中央アジアから中東までの広がりでした。中でも印象深かったのは、今年4月にサウジアラビアとイランとの関係が中国の仲介によって改善され、国交が回復したことです。これは世界の平和と発展にとって、非常に重要な意味を持つのではないでしょうか。湾岸諸国と中国との関係がより密接になったことも注目すべき点です。
カザフスタン、キルギス、タジキスタンなど、中央アジア諸国と中国との関係が密接かつ安定的になったことは、喜ばしい変化で、かつてテロリズムなどの温床だったものが、今はかなり改善されているように感じられます。
改善の理由は、軍事力で抑えるのではなく、経済を発展させることの重要性で一致するようになったからと思われます。中国はインフラを整備し、その国の産業を興すことに重きを置いています。産業を興すには対外開放が必須であり、その開放を行うための重要な手段として、鉄道、道路、通信、電力といったインフラの整備が挙げられます。「一帯一路」を通じ、それらに積極的に投資し開発を行ったことが、中央アジアを安定に導いたと言っても過言ではありません。
「共に豊かに」を目指す
私は5年前から、「一帯一路」と人類運命共同体の理念は、新時代の中国が対外的に行う「改革開放の世界版」であると主張してきました。世界がグローバル化した今、自国の発展を願うだけでは国家建設は完成できません。国際社会の結び付きが必要な今は、自国の経済を有利にするには、他国にも有利なことを行い、ウインウインの関係を保つことが大切です。
中国は自国で行った改革開放を積極的に海外に展開し、中国の遅れた面を修正しつつ、優れた面を他国の参考に提示する方向を目指していると、私は理解しています。自国の利益のみを追求する狭隘な民族主義ではなく、人類運命共同体のように、地球全体の平和と発展を考えて行動することが、今後の世界にとって非常に必要な要素と言えます。
分かりやすい例として、地球温暖化への対応が挙げられます。世界中が熱波に襲われ、あるいは山火事が頻繁に起こり、日本でも台風による水害が多発しており、世界が共に対処しなければ解決できない問題が山積しています。共に手を携え発展する、という人類運命共同体の思想は、他国を巻き込むための手段ではなく、これからの時代を生き抜くための基本的姿勢と思います。
「資金援助して相手国を債務の罠に陥れ、支配を強めようとするのが中国の『一帯一路』だ」、というような指摘もありましたが、これは事実に合いません。自国が負担できないほどの債務を受け入れてしまうのは、被援助国の問題であって、中国自身はそういうやり方をしていません。さらに言えば、「一帯一路」で中国が行っているのは、主に基盤整備です。例えば通信などを含めた交通インフラは、産業を発展させるためのインフラであって、それを支え提供するのは、その国を支配するためではなく、その国が発展するためです。「共に豊かに」という中国の理念がこういうところからもうかがえます。
「第二の深圳」目指す新疆
「一帯一路」は国際社会に発展のチャンスをもたらすと同時に、中国国内の貧困撲滅にも寄与しました。ここ数年にわたり、米国や西側諸国は新疆ウイグル自治区(以下「新疆」)のいわゆる「人権問題」で中国を非難してきましたが、私は以前から、新疆にはいわゆる「ジェノサイド」や人権弾圧は存在しないと主張してきました。それどころか、新疆は「一帯一路」の下、『第二の深圳』として発展する可能性をも秘めています。
新疆はかつて立ち遅れた地域でしたが、中国はその発展に大きな力を注ぎ込んでいました。特に2015年に貧困脱却の堅塁攻略戦(貧困の完全撲滅)という政策が打ち出されてから、新疆支援の任務が託された他の地域は取り組みをいっそう強化しました。
ひとくちに新疆といっても、南と北ではかなり様子が違います。天山山脈の北側と南側では地形も違うし、民族構成も違います。南疆にはウイグル族が非常に多く、しかも周辺を山脈がぐるりと囲み、その山麓にへばりつくように生活する貧困地帯でした。
そういうところに資金援助をすることで人々の暮らしを維持するという発想では、人々は自分の貧しさを実感するだけで解決にはつながりません。自ら働いて稼いで得た金銭を手にすることで労働意欲をかき立てる方法でなければ、本当の貧困脱却にはつながりません。労働する場を提供するための産業を興さなければならず、外部世界との交通手段を充実させなければなりません。
そこで中国は「一帯一路」の下で南疆周辺を巡る鉄道や高速道路を充実させ、さらに深圳など沿海地区から企業などが続々と移転させ、今まで働き口がなかった南疆の人たちに就労機会を与えています。
南疆には石炭や石油などの資源があるので、それを活用する産業の振興も行われました。労働賃金が高くなってしまった沿海地区からの工場移転が行われ、第3次産業の観光も勢いを増しています。
対する北疆にはさまざまな民族がいますが、平時は生産集団として、戦争状態になれば精鋭部隊になる「生産建設兵団」と呼ばれる集団も暮らしています。今は平時なので、最先端の科学技術を持った人々による南疆の支援が行われています。
南疆のみならず、今や新疆全体が中央アジアあるいは中東への出口になっており、16年3月の「中欧班列」(中国と欧州を結ぶ国際定期貨物列車)開通以降、新疆のホルゴス鉄道ターミナルは、ドイツ、ポーランド、トルコ、ロシアなど18カ国と45都市を結ぶ国際物流のハブとなっています。こうした流れを見る限り、新疆は今後ますます発展していく可能性があると言えるでしょう。
私が非常に興味を持っているのは、現在の新疆の党委員会書記の馬興瑞氏です。彼は山東省出身で、黒龍江省のハルピン工業大学を出ており、専門は政治ではなく航空関係です。13年に広東省の党委員会副書記、15年に深圳市の党委員会書記を務め、19年に新疆の党委員会書記に就任しました。宇宙や科学技術について大変強い人が新疆のトップになるということは、新疆が中央アジアあるいは中東、さらには欧州からアフリカにまで進出する可能性を秘めた、非常に注目すべき人事だと思っています。
日本も加えた再構築を
新疆の事例を踏まえ、日本が「一帯一路」をどのように理解すべきかについて最後に語りたいと思います。
奈良時代以降の日本の文化は、中国の恩恵を受けています。それを示す好例が正倉院でしょう。奈良の正倉院にはさまざまな宝物が保存されていますが、長安のみならず、中央アジアの影響を受けた文物も少なくありません。「一帯一路」に文明の歴史を加味した場合、東端の日本まで含めて考える必要があるでしょう。中国にはそうした点を注視していただきたいし、日本側も中国封じ込めなどの狭い政治の世界だけで考えるのではなく、共に豊かになることを目指し、協力し合って平和で安定した国家関係をつくるという考え方を持つべきではないでしょうか。
横浜国立大学名誉教授 村田忠禧
(聞き手・構成=呉文欽)
「人民中国インターネット版」2023年9月28日