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第2回全国大学通訳コンテストについての感想

林国本

 

今回(10月17日~18日)、北京第二外国語学院、中国翻訳協会の共催で開かれた翻訳理論、実践及び教育国際シンポジウムにあわせて行なわれた第2回全国大学通訳・同時通訳コンテストに一評議員として参加させてもらった。私はこれで第1回、第2回と続けてお手伝いをさせてもらったわけだが、今回は時代の移り変わりを肌で感じるものとなった。まずはシンポジウムで討議された理論面の成果に、これまでに比べて大きな進化が見られることだった。

私は若い頃から数十年、政治、経済、時事の国際報道に携わってきたが、とくに政府の重要文書、文献の翻訳の仕事にもかかわってきたので、翻訳理論の知識の必要性を声高に主張してきた。われわれは研究を主とする職業に従事しているものではないので、医学で言えば、開業医のようなものであった。しかし、歴史に残る訳業という視角からとらえるならば、理論を無視することはGPSなしでクルマを運転することに等しいと言っても過言ではない。ところが、理論研究を業としてきた人たちと共同作業をしたこともあるが、この人たちは往々にしてマスコミ機構の「締め切り」の期日を気にしようとしない傾向があったので、発表時間をにらんでの仕事には不向きとみられ、それ以後、声がかからなくなったが、私としては理論の必要性は今でも認めている。

今回のシンポジウムでは、金融、観光の分野についても言及されたことは、この分野におけるニーズの多様化を物語るものであろう。

そして、通訳、同時通訳のコンテストについてであるが、印象としてはマーケットにおけるニーズに触れていない学生たちのことなので、一応みんなそれなりに努力しており、合格点は付けられる。やがて社会に出てマーケットの中でもまれて何十年という歳月の中で絶えず進歩、変容していくに違いないが、一つだけ加えておきたいのは、基礎がまだしっかりしているとはお世辞にも言いがたいことである。日本語に限って言えば、中日両国のカルチャー、習慣についての掘り下げが不十分で、字面だけを追って訳すことに夢中になっているようだった。

私見ではあるが、通訳という仕事はサービス業という側面もあるので、お客様に対するサービスの姿勢も欠かせないのではないか。ブースの中で自分だけが夢中になって会場の人たちのことを全然念頭においていないスタンスは到底いただけない。もちろん、学生にこういうことを注文するのは酷だが、社会に出てもまれる中でこういうことは自然に理解できるようになってくると思う。

これも私見ではあるが、この世界はかなりの面で職人芸的要素、芸人的要素が求められるので、こういう面でも自分を絶えず磨いていく必要があろう。もちろん、学者という身分を貫いている同時通訳者もいない訳ではないし、私はいろいろなパターンの人がいてもよいと思っている。

教師たちの話では、中国の「帰国子女」ともいうべき人たちも現れているそうだが、今回のコンテストにはまだ姿を見せていなかったが、やがては、ユニークなスタイルをもつ通訳者としてこの世界をより豊かにしてくれることになろう。

とにかく、「先生、先生」と呼ばれて、ボランティアの人たちにたいへんお世話になったが、私自身ももう一度小学生になった気持ちで、たいへん勉強になった。コンテストでは他の人を評価しているようだが、わが身を振り返って見ると、まだまだ開拓すべきフロンティアがたくさん残っていることを気づかせてくれる再学習の一日でもあった。

 

「チャイナネット」 2009年10月22日