林国本
なが年ジャーナリズムの世界で暮らしてきたせいか、国内メディアに関心を持つばかりか、国外のメディアにも関心を持っているが、このところ国外のメディアの一部では、オリンピック以後における中国経済の「腰折れ」ということが、まことしやかに喧伝されている。たしかに、環境問題、水不足の問題などそこで取り上げられている事例は存在する。そして、中国自体もそのことをはっきり認識し、それを乗り越えるためにいろいろ手を打っている。しかし、はたしてこれらのマイナス要因が、国外の評論家諸氏の言うような「大混乱」のきっかけとなるのかというと、筆者の答えは「ノー」である。われわれ中国で暮らしているものにとっては、それは切実な問題であり、そういうことが起こっては困るのである。さいわい、われわれは国外の評論家諸氏のように、銀座の料理店で高価な料理に舌つづみを打ちながら、中国事情に「詳しい」といわれる人たちから断片的な知識を仕入れ、センセーショナルな見出しをつけてそれをメディアに売りつけているような生活をしていないので、たえず中国の現実を目の前にして暮らしているので、見方も違っている。
所用で西部地区を含めて中国各地に足を伸ばし、地方にいるシンクタンク勤務の知人、友人と意見交換する機会もあるが、そこで感じたことはどうも国外の評論家諸氏が言っていることとかなり違っているような気がするのである。
一例だけを挙げると、さいきん、時速350キロの北京―天津間高速鉄道が完工し、北京―天津間は片道30分の距離となった。さいきんは北京から天津へ、天津名物のブタまんじゅうを食べ、夕方には海鮮料理を賞味して日帰りしている人も多い。これはただ一本の鉄道ができたということではない。というのは、天津を中心とする一大産業ベルト地帯がこの周辺に現われようとしている戦略的変化を見て取らなければ、あまりにも構想力に欠けるといわざるをえない。
上海を中心とする浦東経済開発区がまだ構想の段階にあった時、日本人の知人で、なが年、中国問題の研究にたずさわってきた、私が常日頃から「頭脳明晰」な中国通として尊敬していたこの人の口から「あんな草ぼうぼうのところになにがつくれるというのか、日本の企業は進出しないですよ」いう言葉が出てきた。私は愕然としたが、エチケット上、にこやかな表情で聞き流してきた。それがどうだろう。今では長江デルタ地帯を牽引する存在となっている。もちろん、経済の発展には波があることもたしかだ。しかし、トータルに見ればいい線を行っていると言えるのではないだろうか。こういう大産業地帯がすでにいくつか出来上がっているのである。碁で言えば、一応布石は済んでいるのである。筆者は、控え目に予測でも「腰折れ」は起こりえない、と見ている。
さらに、国際経済の不確実性とか、原油高、資源高という要因も考慮に入れなければならないが、これを上手に乗り越えれば、中国の国力のさらなるグレードアップも不可能ではない。
だが、これはまったく私見にすぎないが、中国のような13億の人口を抱える発展途上の大国が高度成長をとげている時に外部の人たちに「フレー、フレー、頑張れ!」と応援だけを望むこと自体が未熟さの現われではないか、と思っている。「中国崩壊論」のたぐいを唱える評論家の常連は多くて十人ぐらいであろう。それもほとんどが自由業の人たちである。こういう人たちは、こういう書き方をしなければ消え去る以外にない。大学の教授であれば、一応冷静な分析をしたものを書いているが、それでも外国で生計を立てている人たちであり、大手出版社に「偏向」のある著者と見なされればお呼びがかからなくなる。中国の政策の解説者みたいな役割を果たすことは、自分の生活している共同体から村八分にされることになりかねない。外国の中国評論でかなり正確なものを書いているものもいる。それは自国の企業を中国市場に案内する仕事をしている人たちや大手証券会社のマーケット・リサーチを担当している人たちである。それでも「偏向」と言われることを懸念しているのか、文章の中で「予防線」を張っている。
筆者は、ポスト・オリンピックの布石をすでに完了している中国はすこしはぺースダウンしても、まだまだ右肩上がりの勢いは保てる、と見ている。
「北京週報日本語版」2008年9月2日