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japanese.china.org.cn |23. 08. 2023

合理性を欠く核処理水の海洋放出

タグ: 核処理水
人民中国  |  2023-08-23

ジャーナリスト・岡田充(談) 

日本政府が福島原発の処理水排出計画を8月末に実施するというメディア報道を聞き、関係悪化が心配される中国をはじめ、韓国や太平洋諸国など利害関係国の理解を得ているのだろうかという疑問を持った。 

私が核処理水問題に注目するようになったきっかけは、7月4日に行われた駐日本中国大使館の記者会見だった。呉江浩大使は「日本側は周辺近隣国などの利益関係者と協議せず、排出計画を一方的に決定した」と指摘したのだ。 

呉大使の主張を知り、私はもう少し細かく国際原子力機関(IAEA)包括報告書(以下「報告書」)を調べてみた。すると、私自身が誤解している部分がかなりあったことに気付いた。今まで、報告書は海洋放出を正当と認定しているのだと思い込んでいたのだが、細かく読み進めると、海洋放出自体の正当性には一切触れていないのだ。 

さらに、7月に来日したIAEAのグロッシ事務局長がNHKの番組に出演した際、司会者の「報告書には海洋放出を推奨するものではない、と書かれていますが、これはどうしてですか」という問いに対し、「2021年に日本政府と東京電力がIAEAに諮問をした、つまり海洋放出問題の審議をするよう申請した時点で、彼らはすでに海洋放出の決定をしていた。諮問内容は放出の正当性については一切触れていない。よってIAEAはその問いに答える必要がない」と言っている。 

日本人読者や視聴者の多くは報告書の原文を見たわけではなく、日本の新聞やテレビの報道を見て、IAEAが海洋排出を正当化したのだと誤解をしているのではないか、という疑問が湧いてきた。私自身の恥をさらすのは承知の上で、この問題の論考に挑戦してみた次第だ。 


中国政府の主張は正当 

放射線リスクから人の健康を守るため、そもそもIAEAが定める安全基準には、放出などを正当化する条件として、全ての利害関係者との協議が必要であるという項目がある。今回のケースについて言えば、利害関係者には中国、韓国、太平洋諸国が含まれている。それらの国や人たちの懸念や抗議は正当な権利だ。日本の政府やメディアは中国の批判を「外交カード」と見なしているが、その主張こそが、処理水排出問題を外交カード化するものだと私は思う。 

海洋排出の是非を判断するには、IAEA報告書を海洋放出投棄の安全性と正当性の保証と見なせるか否かにある。最も注意しなければならないのは、報告書が「処理水の放出は日本政府が決定することであり、その方針を推奨するものでも承認するものでもない」と明記している点だ。しかしメディアは、報告書をいかにも「海洋放出を正当化した」かのように報じている。 

グロッシ氏が報告書を発表した7月4日、呉江浩大使は記者会見を開いて中国側の立場を明らかにした。 

海洋排出に反対する理由として呉大使は、 

①日本側は周辺近隣国など利益関係者と協議をせず一方的に決定した 

②原発事故で生じた汚染水の放出は前例がない 

③中国も原発から排出しているというが、排出しているのは冷却水であり、炉心に接触した汚染水ではない 

④原発汚染水には60余種の放射性核種が含まれており、多くは有効な処理技術がない 

――などを列挙し、その上で「日本は直ちに海洋放出計画を中止して国際社会と真剣に協議し、科学的、安全、透明で、各国に認められる処理方式を共同で検討すべき」と主張した。①はIAEAが定める「利害関係者」との事前協議の必要を踏まえた正当な主張だ。 

 

海洋放出を認めぬ日本の世論 

日本の政府はなぜ処理水排出計画を急ぎ行うのだろうか。私は二つの理由があると見ている。 

一つ目はコスト。海洋放出にこだわるのは「安く、手っ取り早いから」に尽きる。経済産業省の2016年段階の海洋放出のコストは、期間91カ月(約7年半)で約34億円と、蒸発方式の340億円(115カ月)や、地下埋設処分=モルタル固化方式の2431億円と比べるとはるかにコストパフォーマンスが良い。 

しかし東京電力が2211月に発表したリリースによると、海洋放出コストはその後アップし、2124年の3年だけで417億円、これに政府が出している風評被害対策として計上した300億円を合わせると、717億円にアップしている。 

二つ目は、対中感情が悪い世論を悪用し、中国の反対を世論の力で押し切れると判断したのではないか。政府は「国際的安全基準に合致する」という結論を出したことをお墨付きにして、海洋投棄の安全性と正当性を強調し、メディアも報告書があたかも海洋投棄のゴーサインかのように報じ続けている。これでは政府とメディアが一体となって、自分にとって好都合になるよう、情報の出し方や内容を操作する「印象操作」と言われても仕方がない。 

しかし共同通信が7月16日に報じた世論調査結果では、岸田政権支持率は34・3%と前月調査比で6・5ポイント下落し、就任後最低水準となった。その理由の一つが、汚染水海洋放出に関する政府の説明で、「不十分」の回答が80・3%に達した。風評被害が起きると思うかについては「大きな被害が起きる」が15・8%、「ある程度起きる」は71・6%で、全体の87・4%を占めた。政府の印象操作という認知作戦が、世論に必ずしも浸透していないことが見てとれる。 

7月29日、西村康稔経済産業相は宮城県漁業協同組合を訪れ、6月の第1回に続き放出開始に向けて理解を求めた。国の300億円の風評被害対策基金による支援や、東京電力による賠償で対応すると強調したが、地元側は「風評への不安がある以上、反対は変わらない」と述べ、話し合いは平行線だったと説明した。地元の説得すら成功していないのに、中国や韓国、太平洋島しょ国が納得するわけがない。

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