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japanese.china.org.cn |23. 08. 2023

合理性を欠く核処理水の海洋放出

タグ: 核処理水
人民中国  |  2023-08-23

 自国内での処分を検討すべき 

 自民党の茂木敏充幹事長は7月25日の記者会見で海洋放出を批判する中国について、「科学的根拠に基づいた議論を行うよう強く求めたい。中国で放出されている処理水の濃度はさらに高い」と反論したが、溶け落ちた炉心に処理水が接触した、歴史上初めての汚染水である事実を無視し、トリチウム濃度問題にすり替えているように私には見えた。 

 「タンク貯蔵水の7割近くには、全体の排出濃度基準を上回るトリチウム以外の放射性核種が残存している」という指摘もある。トリチウムの扱いを強調することで、規制値の高いストロンチウム90など、他の危険な核種に人々の注意が向かないようにして、「中国と同じようにトリチウム水を排出しているだけ」と宣伝している。中国の主張を「非科学的」と決めつけること自体が非科学的だ。 

 最大の問題は、燃料デブリの取り出しのめどが全く立っていないことだ。1~3号機のデブリの総量は880㌧にも上るが、1㌘の試験採取にすら2度も失敗。デブリを取り出せず地下水流入も止まらなければ、汚染水は永遠に増え続ける。日本は世界初の海洋放出を強行した国として、世界の非難を浴びるだろうというのが専門家の意見である。 

 私に言わせると、自国の原発から出た放射性物質は自国内で処分しなければならない。日本の政府と東京電力は海洋放出に固執せず、国内での長期貯蔵にかじを切るべきだ。今回とは逆に、もし中国や韓国が海洋放出すると決定したら、日本政府やメディアは賛成するだろうか? 

 今回の海洋放出について、カナダや米国からはあまり反対の声が出ていないようだ。台湾問題を中心に、日米の軍事一体化と東アジアにおける同盟関係の強化という、米国のバイデン政権にとって最もプライオリティ(優先度)の高い問題をクリアする上で、日本の支持は欠かせない。だから、汚染水の処理問題は二の次なのだ。しかし日本が海洋放出を実際に行えば、カナダや米国の民間団体から反対の声が恐らく出てくるだろう。 

 

 ビジョンなき対中外交 

 最後に、処理水問題を含めた最近の日中関係について私見を述べたい。 

 バイデン政権以降、日本の政府は台湾問題で中国を軍事抑止する安保政策を最優先し、対中関係は悪化の一途をたどってきた。海洋放出で日中対立が激化する中、日本側は先端半導体の製造装置の対中輸出規制を強化し、軍事抑止に続いて経済安保でも中国排除に動き、日中関係は「負のスパイラル」に陥りつつある。 

 米国と中国は対立が衝突に発展しないよう、ブリンケン国務長官をはじめとする高官が相次いで訪中し、首脳交流再開に向けた対話パイプを維持している。しかし岸田政権はというと、対中外交の展望も対話パイプも極めて脆弱だ。負のスパイラルに陥る前に、早急に手当てを行うべきだろう。ことしは日中平和友好条約から45年の節目の年なのだから。 (聞き手・構成=呉文欽) 

 プロフィール  

 岡田充 (Takashi Okada) 

 1972年共同通信社に入社。香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員、論説委員を経て、2008年から22年まで共同通信客員論説委員。 


 「人民中国インターネット版」2023年8月23日



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