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japanese.china.org.cn |14. 12. 2023 |
新疆に行ってみ ませんか? 発見と感動の日本人ツアー記
金知暁=文・写真
「今度中国の新疆に行って来るよって友人に話したら、『すごい秘境でしょう。帰って来られるの』と言うのが8割、残りは『ん? シンキョウってどこ』という反応でした。おそらくほとんどの日本人にとって、新疆はまだ『旅行先』になっていないと思います」。喉越しスッキリの新疆ウスビールを飲み干した内山雄二さん(41)は、ちょっぴり残念そうに話した。
内山さんにとって、新疆ウイグル自治区はもちろん、中国を訪れたのも初めてだった。内山さんがこんな話をしたのは、ウルムチ(烏魯木斉)に着いてまだ24時間もたっていないときだった。ところが、1週間の旅が終わったとき、内山さんはすっかり新疆のとりこになっていた。
今回、内山さんと一緒に新疆ツアーに参加した日本人は17人。中国駐大阪総領事館が2021年末に企画した「新疆は良いところ–コロナ後の中国新疆ツアー」には、日本国内から1000人以上の応募があった。今年6月に日本の市民による新疆ツアーの第1陣が成功を収め、内山さんらが参加したのは第2陣だった。参加者のほとんどは内山さんと同じように中国語が話せず、新疆どころか中国を訪れるのさえ初めてだった。
ツアー参加者は、中国を研究テーマとしている定年退職した大学教授や、中国の発展に注目し、卸売りソフトを使いこなす元経営コンサルタント、中国語を独学して10年という中国のショートビデオに夢中の日中友好協会の会員、これまで100回近く中国を旅し、今回は親友と参加した74歳の女性などさまざまだ。一行は、8泊9日の日程でウルムチやトルファン(吐魯番)、クチャ(庫車)、アクス(阿克蘇)、カシュガル(喀什)を訪れ、新疆ウイグル自治区の風俗・習慣やユニークな民族の歴史・文化を深く体験した。
感動の天池、火焔山、故城
新疆に到着して1日目、一行は新疆ウイグル自治区博物館を訪れた。同館には、「さまよえる湖」として知られるロプノールの北部の鉄板河遺跡の墓地から1980年に発掘された、世界で最も有名なミイラの一つ「楼蘭の美人」が展示されている。この他にも、トルファンのアスターナ古墳から72年に発掘された「鎮墓獣」――中原地域の埋葬習慣を反映した唐代の彩色墓守土偶や、トルファン地域の古代墳墓から大量に出土した、深い目と高い鼻の胡人(西域の異民族)として描かれ漢民族風の化粧を施された伏羲(男神)と女媧(女神)の肖像画など、豊かな内容を持つ一つ一つの展示物にツアー参加者たちから驚きの声が上がった。またそれはメンバーが初めて知る新疆の印象ともなり、新疆が古来、多文化、多民族、多宗教が共存し、相互交流と融和の地であることを知った。この「ウオーミングアップ」の後、一行は本格的に「壮大な」新疆の旅へと踏み出した。
50カ所ほどカーブがあるつづら折りの山道を車で上っていく。窓外の景色も温帯の砂漠から山岳地帯の草原、岩の峡谷が渓流、トウヒ(唐ヒノキ)の林へと移り変わり、最後は天山山脈東端の最高峰ボゴダ山(5445㍍)中腹部にある氷河湖の天池に到着する。天池は標高1910㍍に位置し、半月形の湖面には松林と雪を頂いた峰々が映る。
メンバーたちは次々にスマートフォンを取り出しては写真を撮り、どのスマホの撮影機能が優れているか、パノラマ写真がよく撮れるかと比べ合った。また、観光エリアを走る無人の観光用電気自動車を絶賛。さらに、湖畔で結婚写真を撮っていたカップルのことも帰りの車中でメンバーたちの話題となった。
天池を離れた一行は天山山脈の東部に位置するトルファンにやって来た。トルファンは古代シルクロードの中心都市で、これまでに200カ所以上の文化遺跡が発掘されている。また有史以前から現代までの4万点以上の文化財が出土し、その古文書類には25種類の言葉が使われていたことが判明している。
トルファンの東部では、紀元前1世紀の前漢から14世紀の元・明時代までトルファン盆地の中心地として栄え、古代シルクロードの要衝であった高昌故城を見学した。唐代にここは貿易の拠点となり、通りには多くの商館が軒を連ね、中央アジアや南アジア人、北方の遊牧民、さらに中原などからのさまざまな人々でにぎわった。そこには金銀細工や香辛料、良馬、絹織物、磁器などの商品が運ばれ、有無相通じていた。また歴史書によると、かつて玄奘三蔵もインドへ仏教経典を求めた旅の途中この地に立ち寄り、人々に厚く歓迎されたという。
ウイグル族のガイドがこうした歴史を紹介すると、ツアー最年長の長崎大学名誉教授・井手啓二さん(80)は、持参したシルクロードや西域関連の本を取り出し、読後の感想を伝え、その本をプレゼントした。井手さんにとって今回の新疆の旅は、新型コロナの流行開始から3年8カ月ぶりとなる「中国訪問の渇望を満たす旅」だった。また井手さんは、わざわざウイグル語の簡単なあいさつの発音をローマ字に直し印刷して持参。これで中国を知りたいという欲求不満が「少しだけ解消できた」と笑顔で話した。
高昌故城の北側には、標高500㍍ほどの東西に横たわる赤い砂岩の丘陵が見える。これが『西遊記』に出てくる火焔山だ。現地に来る道すがら、『西遊記』の火焔山に関する部分を読み直すメンバーもいた。
火焔山は中国では最も暑いところで、夏の最高気温は48度にもなる。日当たりの良い山肌では地表温度は80度を超え、砂地でゆで卵ならぬ直接「焼き卵」が作れるという。好奇心から木下誠二さん(50)は現地で売っている「砂焼き卵」を試食、「あっさりした塩味でとてもおいしい」と大満足だった。そばで見ていた貫井正さんは、「こんなところでもウイーチャット(中国版LINE)ペイでスマホ決済ができるなんて、本当に便利だね」と驚いていた。
トルファンの西郊には、もう一つ異なる様式のトルファン文化の都市遺跡・交河故城がある。ここはトルファンで最も古い記録が残るオアシス王国で、遺跡は両端が狭く中央部分が広い柳葉型で、二つの川が都市の周りを流れて南側で合流することから名づけられた。都市全体に城壁はなく、建築物のほとんどは、そびえ立つ台地を下に掘り進める「減土法」という方法によって造られており、宋代以前の中原の都市の建築的特徴を残している。交河故城は、世界で最も保存状態が良く、最も期間が長く、最大規模の土で築かれた古代建築都市である。
「葡萄美酒夜光杯、欲飲琵琶馬上催。酔臥沙場君莫笑、古来征戦幾人回」(おいしいブドウ酒を玉で作った夜光杯に注ぎ、飲もうとすると琵琶の音が馬上で鳴り響く。酔って砂漠に倒れ伏しても、君よ笑ってはいけない。昔から戦場に赴き生還した人がどれだけいたというのか)――。
ツアーの一行は川から水を引いている交河故城の東門に立ち、今回見学した天山山脈の雪解け水をオアシスまで引き込むかんがい用の地下水路「カレーズ」を思い起こした。目の前の情景に感動した伊関要さん(64)は、唐の詩人・王翰が詠んだこの『涼州詞』を日本語で暗唱し、皆から盛んな拍手を浴びた。
「これは高校の漢文の授業で学んだ漢詩です。初めて新疆に来て交河故城の遺跡を見て、トルファンがブドウ作りの盛んな土地と知り、この詩を思い出しました。40年以上も前のことなので、正しく覚えているかどうか分かりません」と伊関さんは謙虚に語り、「新疆は本当に素晴らしく、感動しました」と力を込めた。