文=小林正弘
清華大学法学博士
Genuineways Law Firm パートナー
新エネルギー産業における中国製品の躍進は凄まじいものがある。その中でも最近は中国製電気自動車の海外輸出をめぐり欧米諸国と中国との貿易摩擦が激化し、欧米諸国は中国政府による補助金政策と中国企業による生産過剰によって市場価格が急落し、安価な製品の流入によって自国関連産業および労働者に壊滅的な打撃が及んでいるとして、中国政府に「生産過剰」状態の抑制を求めている。
生産過剰の有無については国際的な基準および信頼できるデータによって検証されるべき問題であるが、グローバルマーケットの需要と将来的発展可能性の観点からは、果たして生産過剰といえるかは大いに疑問である。報道によれば、2023年のグローバルマーケット販売台数は前年比35.4%増の1465万台であり、主要国家における市場平均浸透率はわずか16%であるのに対し、国際エネルギー機関(IEA)の試算では2030年のグローバルマーケット需要は4500万台に達するとされている。中国マーケットにおける電気自動車価格の急落は生産過剰によるものではなく、主に市場競争の激化によるものではないだろうか?中国企業が近年、低価格かつ高性能の電気自動車を製造販売できるようになった要因として、中国国内のサプライチェーンや充電スタンドの拡充、安価な電気代など中国マーケットの優位性に加え、中国企業自身が研究開発に注力し競争力が急速に高まっていることを見逃してはならない。
電気自動車に関する中国政府の補助金政策について注意が必要なのは、この補助金政策の支給対象は必ずしも中国企業に限定されていない点である。例えば、報道によれば、2020年に最も多く補助金を取得した企業はテスラであり、中国国内で製造販売した約10 万台の売り上げに対し、約21 億元の補助金を取得した。しかし、最近はテスラでさえも中国市場ではBYDをはじめとする中国企業との競争に直面し、販売台数が伸び悩み、値引き販売やリストラを余儀なくされている。したがって、中国の電気自動車市場は、中国企業か外国企業かにかかわらず、不断に研究開発に注力し新製品を投入なければ市場競争原理によって淘汰されてしまう非常にシビアな市場といえる。
新技術開発の成否を決めるファクターは研究開発投資の規模とその受け皿となる企業や研究機関の開発能力であり、補助金政策はそのサポートでしかない。競争の厳しい中国エネルギー市場で生き残り、大きく成長した中国企業が海外に進出するのはごく自然な経済原理である。問題の本質は、単なる生産過剰の有無ではなく、「中国において海外企業にも開かれた透明かつ公平な補助金政策がなされているか」、「海外企業は高度な研究開発能力を有する中国企業といかに向き合うべきか」、そして「各国が自国の実情に即した将来の産業育成・保護戦略をいかに構築し展開していくか」にあるのではないだろうか。
「中国網日本語版(チャイナネット)」2024年4月24日