文=小林正弘
清華大学法学博士
Genuineways Law Firm パートナー
2024年12月2日、第20回「北京-東京フォーラム」中日共同世論調査の結果が発表された。同調査結果によると経済・貿易は依然として中日関係を安定させ、推進するものであり、両国の半数以上のアンケート回答者が相手国を自国の重要な経済・貿易パートナーとみなしていることが明らかになった。また、アンケート回答者のうち中国側の51.8%、日本側の58.0%が相手国を世界の主要な経済体および自国の主要な貿易相手として重視していることが分かった。さらに、50.8%の中国側の回答者は両国が経済や産業の面で相互依存関係を強めており、多くの共通の利益があると認識していること、65.3%の日本側の回答者が両国の経済協力は日本の未来にとって重要であると考えていることが明らかになった。
現在、中国には3.1万社余りの日本企業が進出しており、これは日本企業海外拠点数の約40%を占め第1位となっている。2015年前後から、日本企業の対中直接投資収益率は第1位をキープしており、2017年以降は15%前後で推移し、2022年には18.4%を記録しており、これは他の主要国を大きく上回っている(アジアは約14%、北米は約9%)。中国のGDP成長率は5.2%(2023年)で、その規模は世界2位(世界全体の約16.9%。アメリカは約26.1%、日本は約4%)で日本の4.2倍。日中貿易総額は42.2兆円(2023年)で、日本にとって中国は最大の貿易相手であり、中国にとって日本は熾烈な貿易紛争を繰り広げるアメリカに次ぐ第2位の貿易相手国(2023年)である。
以上のデータから日中両国が相互に重要な経済・貿易パートナーあり、強い相互依存関係があるとの世論調査の結果に客観的な裏づけがあることが分かる。
他方で、日本国内では中国不動産市場の低迷に伴う景気の不透明感、米中貿易紛争等による地政学的影響などのいわゆるチャイナリスクが強調され「外資の中国離れ」が起こっているかのように報道されている。しかし、実際には中国市場で外資企業が次々と海外移転・撤退するといった動きは今のところ見られていない。上述した中国市場における投資収益率の高さ、日本企業が中国にて構築したサプライチェーンの信頼性、成熟した品質管理体制、経済成長を続ける13億人の巨大マーケットのもつ将来性、知的財産保護の強化を含むビジネス環境が年々改善されている状況等を踏まえて、総合的に中国市場の重要性を判断する必要がある。
11月20に発表された中国日本商会が在日中国企業約8000社を対象に四半期ごとに実施している「景況および事業環境に関するアンケート」では本年7〜9月期の業況が小幅な改善傾向にあることが示され、2024年の投資について「増加させる」または「維持する」という回答が56%と半数を超え、従前の調査と同様の投資意欲が続いていることが示された。また、事業環境については「非常に満足」及び「満足」が59%で、5回連続で高い割合が示された。さらに注目されるのは、アンケート要望事項には「日本での中国報道が偏りすぎている。事実を報道して欲しい」と明記され、中国日本商会会長の本間哲朗氏は記者の質問に回答する形で「中国にいる日本企業は中国の進歩しているところもよく知っている。そういうことをもっと報道してほしい」、「偏った報道が原因で、株主や取締役、労働組合などが中国に対して過度に悲観的になり、上場企業が中国への投資をしづらくなる。若者も中国での就職を避ける傾向になっている」と懸念を示した。
このように、在中日本企業の中国市場における現場感覚が日本によく伝わっていない現状にもかかわらず、65.3%の日本側の回答者が両国の経済協力は日本の未来にとって重要であると考えていることは、今後の日中関係を考える上での明るい材料といえる。アメリカによる厳しい半導体規制を受けならも、ドローン宅配、無人自動運転タクシー、空飛ぶ車、AIロボットなどの最先端技術を開発し、着実に発展を続ける中国。中国と激しい貿易紛争を展開しながらも中国最大の貿易相手国であるアメリカ。表面的な現象に惑わされず、実際に中国を訪問し、多角的な視点から自らの目で中国の実像をリアルに認識し、中国市場の重要性、将来性を見極め、今後の経済協力のあり方を真剣に模索する必要がある。
中国ブランドのデザインと品質の向上は著しく、もはや日本ブランドだからといって売れる時代ではなくなっている。価格競争も厳しい。他方で、伝統的な製造業のみならず、水素を含む新エネルギー車、デジタル経済、グリーン経済、AIなどの新しい産業分野ならびにシルバー経済、医療、金融保険、文化旅行などのサービス分野など、日中間での経済協力が展開できる分野は広く深い。これに加え、ハイテク技術の全方位的な応用により付加価値を高める「新しい質の生産力」を経済成長の目標に掲げ、産業構造のグレードアップを果断に推進している中国政府および企業の取り組みは日本企業の発展にも大いに参考になるはずだ。
中国の市場および消費者のニーズをより深く理解し中国マーケットに敏感に対応できる体制を構築し、多様な中国の消費者の心を掴む魅力ある商品およびサービスをタイムリーに提供していくことが、中国市場で生き残る鍵となろう。そのためには、豊富な資金力と驚異のスピードをもつ中国企業との棲み分けや日本企業のよさを活かせる業務提携、中国人材の積極採用、第三国市場協力、RCEPなど、様々な視点から経済・貿易のよきパートナーとして共存共栄を図っていく必要がある。
「中国網日本語版(チャイナネット)」2024年12月6日