日本では年末年始やお盆の時期に、多くの人が故郷へと向かう。「帰省ラッシュ」は故郷や家族への思いを映し出す風物詩でもある。中国にも「春運」と呼ばれる帰省ラッシュがあるが、その大きな違いは、数十億人が大移動するという圧倒的な規模だ。
「春運」とは春節(旧正月)の帰省や旅行ラッシュに対応するための特別輸送体制を指す。一般的には、春節前の15日間と春節に入ってからの25日間を合わせた計40日間となる。この間、仕事や勉強で故郷を離れて暮らしていた人々は一斉に帰郷して、ひとときの家族との団らんを楽しみ、また勤務先や学校へと戻っていく。それによって、世界でも例を見ない規模の民族大移動が毎年繰り返されている。
2026年の春運は2月2日に幕を開けた。公式予測によると、今年の春運期間の地域間移動(省、自治区・直轄市や市を跨ぐ移動)は、過去最高の延べ95億人に達する見通しだ。中国の交通ネットワークにとっては、年に一度の大きな試練となっている。
「人類最大規模の周期的移動」とも称される春運を支えるため、中国の交通部門は連携して対応している。鉄道部門は新しい特別ダイヤを実施し、ピークが予想される日には1日1万4000本以上の列車を運行する予定であり、輸送力は前年同期比5.3%増となる計画だ。民間航空もハブ空港や人気観光地へのフライトを重点的に増便して対応する。1日あたりの平均運航便数は前年同期比5%増の1万9400便になる見通しだ。道路交通では、「毛細血管」のように張り巡らされた道路ネットワークによって、きめ細かなモニタリングと緊急対応が強化されている。水運でも主要航路でフェリーなどの輸送力を増強し、輸送チェーンの完全性と効率を確保している。
これまで毎年の難題となっていた春運の「切符の入手難」も、テクノロジーの進化によって緩和されつつある。切符確保のために駅の切符売り場で夜通し並んでいた時代は過去のものとなり、今ではスマホアプリで切符を購入できるようになった。さらに、キャンセル待ち機能の追加によって、切符の購入は以前よりはるかに便利になった。ビッグデータも乗客の流れの予測やスケジューリングの最適化に活用されている。中国の鉄道では安全検査が実施されているが、スマート化された保安検査や改札設備の導入により、改札通過の所要時間はわずか数秒に短縮された。さらに、新エネルギー車の急増への対応として、交通部門は中国のメッセージングアプリ「微信(WeChat)」のミニプログラムを通じて、全国の高速道路サービスエリアの充電スタンドの情報をリアルタイムで共有し、充電への不安を解消している。
では、効率を極限まで追求するこのようなシステムの中に、「ゆっくり」や「少数の個人」に対応する余地は残されているのだろうか。
今年の春運では、いくつかの新しい措置が講じられる。その一つが、多くの人が利用するデジタルの鉄道乗車券購入システム「12306」による電話予約サービスだ。60歳以上の高齢者向けに電話予約専用の回線を新設し、デジタル技術に慣れない人々が疾走する時代の列車に取り残されないように配慮している。静かに過ごしたい人のための「静音車両」や親子連れに優しい「子連れ専用車両」の導入は、異なるニーズを持つ乗客にそれぞれの快適さを提供する。スキー用具やペット預かりサービスの導入は、多様化するニーズを満たしてくれる。これらの一見ささやかな取り組みには、単なる数字では測りきれない価値があり、社会の成熟度を測る尺度となる。
効率を求める社会と一線を画し、今も山間部や田園地帯を走り続ける「鈍行列車」も少なくない。運賃が安く、すべての駅に停車する鈍行の普通列車は、現在の「タイパ」を求める世界には必要とされないかもしれない。しかし、それらは小さく辺鄙な村と外の世界をつなぎ、沿線に暮らす人々の通学や通院、買い物の足となっている。これらは猛スピードの発展という急行列車が疾走する時代の中にあえて残された「ゆっくりという選択肢」であり、効率優先の時代であっても、誰一人として駅のホームに置き去りにしないという約束でもある。
毎年やってくる春運は、もはや単なる交通の課題ではなく、中国社会を観察できる「社会の鏡」であり、そこには温かみのある風景が映し出されている。そこには、国が総力を挙げ、全ての資源、知恵、誠意を動員して、数億人の団らんへの願いを実現しようとする姿がある。
95億人規模の春節の民族大移動。その終着点には、家庭の温かい灯りがある。人々は帰省の道のりの中で、効率と公平、発展と温かみ、革新と伝統といった大きなテーマへの確かな答え、数々の技術や工夫を目の当たりにするだろう。その道には、中国の「人を大事にする」という発展理念が敷き詰められているのだ。(CMG日本語部論説員)
「中国国際放送局 日本語版」2026年2月7日
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