寿司と言えば、まず便利ではやい回転寿司を思い浮かべる人が多いだろう。日本ですでに回転寿司は相当普及しているけれど、実のところ、多くの江戸っ子にとって、寿司と言えば、ベルトコンベアに乗って運ばれてくる流れ作業製品ではなく、修行を積んだ職人が一つ一つ心をこめて握る寿司だ。
東京恵比寿にある江戸前寿司の老舗に足を踏み入れると、百年変わらない寿司へのこだわりと真心が感じられる。その店の名は「吉野鮨」だ。
吉野鮨は広い店ではない。約30平米の室内にカウンターを囲んで椅子が8つあるだけだ。空間は狭いけれど、お客は主人と近い距離を保ちながら面と向かって会話することができ、主人もお客の様子を見て、何を食べたいのかを見てとることができる。江戸前寿司4代目の遠藤斗紀雄さんはお客から「ご主人」と呼ばれるのが一番好きだという。主人はここで代々伝わる味を披露するだけではなく、真心をこめてお客に対している。
お品書きは実に簡単で、2種類しかない。ひとつは握り寿司、もうひとつは刺身を加えたセットだ。お品書きには具体的なネタは書かれておらず、日本語でこれを「おまかせ」という。つまり、全てメニュー選びを主人に任せるのだ。もちろん、主人も勝手に決めているのではなく、その日魚市場で仕入れた最も新鮮な魚をお客に提供する。それがお客と主人の信頼の上に成り立っている「契約」だ。
全ての寿司を出す順序にもこだわりがある。色の薄いものから濃いもの、味の薄いものから濃いものという原則を守ることで、お客はそれぞれの魚本来の味を味わうことができるという。
よく見ると、ここの寿司は他の店よりもネタが大きく、ネタがシャリを上から下までほとんどすっぽりと包んでしまっていることに気づく。シャリの量が明らかに他の店よりも少ない。主人によれば、ネタとシャリの最も良い比率も代々伝えられてきたという。「この比率がお客様に一番魚のおいしさを味わっていただけます。本来、寿司屋では魚が主役で、シャリは脇役です」
しかし、たとえ脇役でも、主人は十分に心を尽くす。他の店ではご飯に色の着いていない一般的な酢を加えるが、この店では伝統的な赤酢を使用している。「赤酢と塩を一緒にご飯に混ぜ込むのが伝統的なやり方です。魚のおいしさをいっそう引き立てることができます」伝統的な江戸前寿司の味に対する主人の徹底した追求が、常連客の確かな支持を得ている。インタビューの日、ある常連客が店に来ていた。能木俊二さんは北海道の医師で、東京で会議のあるときにはほとんどいつも吉野鮨に足を運んでいる。
常連客として、能木さんは、少しもいい加減なところのないこだわりぬいた料理の他に、この店のくつろいだ、楽しい会話のある雰囲気を重視しているという。
最高の寿司とそこにある人情を、この百年の歴史を持つ老舗には見つけることができる。
「中国網日本語版(チャイナネット)」2011年8月30日