米誌「The Atlantic」のウェブ版では、「郷愁――どうして中国では40日間でのべ32億人が移動するのか」というタイトルの文章が掲載された。
大都市で孤軍奮闘する中国の出稼ぎ労働者は、入手困難な列車の切符、旅路の苦労などをものともせず、万難を排して故郷への帰途に着く――彼らが故郷で失ったものを取り戻すために。
中国の大都市の住民なら誰もが熟知する一幕。寒空の下、広場を超えて歩道にまでくねくねと、切符を買うために駅前に並ぶ人々の行列が伸びる光景のことだ。
「春運」(春節特別輸送)とは、故郷から遠く離れた都会で働く人々、あるいは学ぶ人々が一斉に家に戻って新年を迎える一時期を差す。過去30年もの間、より良い仕事を見つけるため、2.5億以上の若者が発達の最も遅れた内陸部から沿海都市へと向かった。そしてより豊かな都市生活を享受するため仕事に励んだ。通常ならば1月中旬に始まる春運は、この30年に渡る移動熱で、その期間がますます伸びている。今年は1月8日に始まった春運だが、この40日間の旅客数はのべ31.58億人に上ると見込まれる。世界最大規模の周期性を持つ民族移動である。その多くの人が30時間以上の旅程を必要とするという。
中国の農村では、こども4人あたり1人が出稼ぎした両親の帰りを待っている。そのため、1月中旬に切符を手に入れるのは、出稼ぎ労働者にとっても政府にとっても年に一度の悪夢となる。
評論家ならば問うだろう、「どうしてそんな苦労をしてまで切符を買うのだ。何十時間も汽車の中で揺られなくてはいけないのに」と。切符争奪戦を勝ち抜き、異郷での1年間の奮闘による疲れを抱えた出稼ぎ労働者はこのとき、いつにも増して家族の温かい懐に戻りたいと考えている。中国が大きく変化するに従い、誰しも過去と断絶したような思いにとらわれている。彼らは、まだ残る伝統、たとえば家で新年を迎えることに、新しい意義を見出している。
1980年代より、中国の改革開放経済によって人々はチャンスを求めて故郷を離れ、遠く離れた都会にやってきた。これら出稼ぎ労働者は北京や上海などの大都市に殺到し、珠海や深圳などの経済特区にも広がった。都市は繁栄を享受する一方で、出稼ぎ労働者から新たな挑戦を受けている。彼らは、全く異なる新しい環境の中の一員になることを欲したのである。中国の戸籍制度では、教育や医療保健など市民に与えられる福利厚生が、非市民に対しては制限されている。戸籍制度は、伝統的かつ持続的だった何世代もの一族の結びつきを解体させた。なぜなら、子供を都会の学校に行かせられず、年老いた両親と一緒に暮らせないのなら、出稼ぎ労働者は自分たちだけが移住し、子供や老人は家に留まらせることを選択するからだ。
建築現場や工場で働くことにより、出稼ぎ労働者は給料の一部を故郷の家に送ることができる。しかし都市の不動産価格が高騰しているため、都会で家を買うのはほぼ不可能である。
出稼ぎ労働者が都会から都会へと移動するようになり、家の意味はさらに広く、豊かになった。漠然とした戸惑いと、故郷に背を向けた感覚が、一人一人の出稼ぎ労働者の心に住みつくようになった。これはおそらく、中国の高度経済成長にとって避けることのできない副産物だった。毎年の春節前、彼らが故郷への汽車に乗り込んだとき、やっとこの感覚からしばし開放されるのである。
「中国網日本語版(チャイナネット)」2012年1月31日