「カナス」はモンゴル語では「美しく豊かで、はかり知れず神秘なところ」を意味する。ここカナス湖は、確かに美しくて神秘なところだ。
カナス湖は新疆ウイグル自治区の最も北側にあるアルタイ山脈の奥深いところに位置し、ブルルトカイから約260キロ離れている。しかし、山中の道は曲がりくねっていて、車で4時間半もかかった。
この途中、ブルチン(モンゴル語では「奔流する川の水」の意味)という県城を通った。ブルチンは色鮮やかな美しい町で、至る所にヨーロッパ風の屋根の尖った建築があり、青や黄色、さらにピンク色や赤などに塗られていて、まるでおとぎ噺の世界のようだ。
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カナス風景区の臥竜湾(写真・居建新) |
近年、カナス風景区の自然環境を保護するため、風景区内の旅館は全部取り壊され、大勢の観光客はブルチンの県城に泊まるようになった。このため、人口6万人のこの小さな町は、ホテルやレストランが林立する「ホテルの町」となった。
カナス自然保護区に到着しても、カナス湖は見えない。カナス湖は高山にある湖で、海抜約1300メートルのところにある。三日月形をしていて、その長さは24.5キロに達する。カナス湖を見たければ、保護区内を走る専用バスに乗って上へ登らなければならない。
登るに連れて、カナス湖はその姿を徐々に現してくる。竜のようにくねくね曲がっている臥竜湾から、静かで美しい月亮湾、さらに雲や霧が立ち昇る神仙湾まで、一つ曲がることに一枚の美しい風景画が現れ、ひとつとして同じものはないと言うことができる。
カナス湖観光にもっとも適した季節は秋である。秋になると、湖のほとりにある森林はしだいに夏の緑服を脱ぎ、緑の中に黄金色、オレンジ色、萌黄色などの秋の色が挟まり、それが重なり合って、麓から山の頂上にゆっくりと広がっていく。
森林に抱かれた湖水の色も変わる。カナス湖の水中には氷河によって作られた多量の小石の堆積物が風化して存在し、その粒状の石が、角度と強さの異なる陽光に照らされると、異なる色で反射する。このため湖水は、季節と天気の変化にともない、ときにはグリーン、ときにはブルー、ときにはグレーに変わるという珍しい景観が出現する。
カナス湖にはもう一つの珍しいものがある。それは「千メートルの枯れ木の長堤」である。常識から言えば、枯れ木は上流から水の流れに乗って下流へ漂っていくはずだ。しかし、カナス湖の場合は、それとは反対だ。上流の、湖に流れ込む河口近くに、大量の枯れ木が漂い、それが一つになって長い堤になっている。ある人が下流に浮木を投げ入れてみたが、その浮木はなんと上流へ漂って行き、そこにある長堤といっしょになった。これは、湖の下流には高い山があり、上流から吹き付ける強い谷風を阻み、風の向きを変えさせ、浮木を逆流させたため、こんな奇観を造ったのである。
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もっとも美しいカナス湖の月亮湾(写真・居建新) |
カナス湖は美しいだけではない。その神秘性も語らなければならない。その中にもっとも有名なのは、湖に怪獣があるという伝説である。
地元のツーバ人の間には、湖に巨大な怪獣がいるという伝説が伝わっている。その怪獣は魚の形をしており、長さは約10メートルあり、鴨や羊、牛などの動物を丸呑みにするという。多くの遊牧民は、かつて湖のほとりで羊や牛を失ったことがある。また湖岸の水の浅いところで、羊や牛の骨格が丸ごと発見されている。このためツーバ人は、この怪獣を湖の聖とか守り神として崇拝している。
この20年間、湖の怪獣を見たという報告が頻繁にあった。最近では、2005年6月のこと、数人の北京の観光客が遊覧船で湖を観光しているとき、遊覧船から200メートルほど離れた水面に高さ1メートル以上の波が起こり、水面下に十数メートルもある大きい物体が快速で泳いで行ったのを見た。当時、一人の観光客は、ビデオカメラでその状況を録画した。これは湖の怪獣の研究に貴重な資料となった。
1980年からは、国内のいくつかの科学調査隊がカナスで湖の怪獣の研究に来たが、いまだに実物を捕えたことがないため、人々が納得できる解釈はまだなされていない。