南京大虐殺の生存者・夏淑琴さんが、日本の東中野修道氏と松村俊夫氏を名誉毀損で訴えていた裁判で、南京市玄武区人民法院は23日、原告勝訴の1審判決を言い渡した。中国の裁判所が南京大虐殺に関する民事訴訟で判決を言い渡したのは初めて。新華社のウェブサイト「新華網」が報じた。
同法院は被告である東中野氏と松村氏、およびその出版元の展転社に対し、原告である夏さんの名誉を毀損する本の即時出版差し止め、すでに出版された本の回収および廃棄、中日両国の主要メディアの目立つ位置への謝罪広告の掲載、慰謝料160万元の夏さんへの支払いを命じた。判決に不服がある場合、被告は30日以内に南京市中級人民法院に上訴することができる。今年77歳の夏さんは「裁判所は公正な判決を下した」と判決に満足を示した。
被告側は出廷しなかった。
亜細亜大学の東中野教授は1998年、「『南京虐殺』の徹底検証」、自由主義史観研究会の松村氏は「『南京虐殺』への大疑問」をそれぞれ展転社から出版した。これらの本は夏さんら南京大虐殺の犠牲者を「偽の証人」「政府にそう仕立て上げられただけ」と説明し、特に夏さんについては「故意に事実を捏造し、人々をだまして有名になった」「その証言は、ある人がある時期に想像で作り上げたもの」としている。
夏さんは2000年に両氏と展転社を名誉毀損で同法院に訴え、名誉毀損行為の即時停止、中日両国の主要紙上での謝罪、160万元の賠償を求めた。同法院は2004年9月15日と16日に反対尋問、同11月23日と25日に公開審理を行ったが、被告側はいずれも出廷しなかった。
南京大学法学院の張暁陵教授は「本訴訟の意義は重大だ。これまでは南京大虐殺、日本による細菌戦の中国人被害者、あるいは強制労働の中国人被害者に関する訴訟は、ほとんど日本で行われ、被害者の権利擁護は非常に困難だった」と強調。「国際司法の慣例では、第2次世界大戦に関する民事訴訟は自国で行うことができる。夏氏の訴訟は、第2次世界大戦中の中国人の権利擁護について、国内での審理に新たな道を切り開くものだ」と指摘する。
日本人の両被告は同法院に出廷しなかっただけでなく、2005年4月には夏さんによる起訴事実が「存在しない」ことの確認を求める訴訟を東京地方裁判所に起こした。ところが2006年6月30日に夏さんが東京地方裁判所に出廷すると、被告の弁護士は訴訟を取り下げた。
夏さんは「日本の『歴史学者』がなぜでたらめを言い、中国を侵略した日本軍に深く傷つけられた中国人をこのように扱うのかわからない」と述べ、被害者の1人として、日本であろうと中国であろうと、歴史に真実を取り戻し、正義を勝ち取るために戦っていく決意を示した。
夏さんの弁護士、談臻氏は「東中野氏と松村氏は南京で実地調査をしたことも、夏さんを直接取材したこともなく、いくつかの資料の言葉の違いだけを頼りに、夏さんの本当の身の上を否定している。彼らは大衆をミスリードし、南京大虐殺の歴史的事実を根本から否定しようと企んでいる」と強調。「裁判所が審理・認定した証拠は、今後すべて法的意義を持つ。被告が出廷・弁論しなかったことは判決の法的効力になんら影響しない。中国の民事訴訟法第130条は、被告が出廷しない場合、法に基づき欠席裁判を行う権利を裁判所に認めている」と指摘する。
中国を侵略した旧日本軍は1937年12月13日、夏さんの自宅に侵入し、一家7人を殺害した。幸い、当時8歳の夏さんと4歳の妹は助かった。米国人のジョン・マギー牧師が危険を冒して撮影したフィルム「南京暴行紀実」は、南京城南門東新路口5号の2家族11人が殺害されるシーンを如実に記録しており、そこには少女時代の夏さんも写っている。
夏さんの悲惨な境遇は、旧日本軍による南京大虐殺の1つの縮図に過ぎない。1937年12月~1月、日本軍は南京を占領する過程で、残虐な強姦と虐殺の獣行をはたらき、30万人以上の中国市民および武器を捨てた中国兵を殺害し、2万人以上の女性を強姦した。現在も南京には南京大虐殺の生存者が400人以上暮らしている。
写真(1):勝訴に感激する南京大虐殺の生存者
写真(2):旧日本軍の暴行を話しながら、涙で声をつまらせる夏さん
「人民網日本語版」2006年8月24日