だが地震が起きなかったとしても、日本の家電メーカーは世界の熾烈な市場競争の中で徐々に後退し、完全撤退は時間の問題だったといえる。
21世紀に入ると、日本メーカーに追いつき追い越すことを目標にした韓国のサムスンとLGが、コスト面での優位性をよりどころにして世界でシェア拡大を続けた。韓国政府も両社に資金を提供したり、政策面で支援したりし、日本メーカーは多くのシェアを失うことになった。韓国企業はさらに欧州のフィリップスやシーメンスといった家電メーカーもうち負かした。さらに中国家電メーカーが勃興して世界のローエンド市場を席巻し、日本メーカーは韓国と中国との二重の圧力にさらされて、徐々にハイエンド市場に後退するしか方法がなくなった。
ハイエンド市場に後退した日本メーカーはその役割を十分に演じることができなかった。日本は家電製品の研究開発で長らく世界のトップを走り、大量の技術特許を擁しているが、イノベーションの持続的推進では大きな進歩を遂げられなかった。冷蔵庫や洗濯機などの白物家電はここ数年、大きな技術革新がみられず、技術革新がない状況の下で、後から来る者は製造面での優位やコスト面での優位に基づいて、日本メーカーをやすやすとうち負かした。かつて日本メーカーのエアコンは中国で非常によく売れていたが、今の中国エアコン市場は格力や美的といった国産ブランドの天下だ。
テレビでは、ここ十年ほどの大規模な技術革新により、時代はずっしりと重いブラウン管テレビから薄くて軽い平面ディスプレーテレビへと移った。だが日本の家電メーカーはチャンスをつかまえられなかった。ただシャープは長年の平面テレビ研究開発の蓄積があり、日本国内に液晶ディスプレー工場を建設するとの決断を迅速に下し、その技術力によって平面テレビ時代の今、急速に勃興し、今もなお液晶テレビをめぐる発言権を掌握している。しかし他の多くの日本メーカーは時代の移り変わりという一大チャンスをつかまえることができなかった。