産業の大黒柱として日本を支え続けてきた自動車産業は、日本の将来に大きな影響を与えるからだと志賀俊之氏は回答する。資源の乏しい日本は、ほとんどのエネルギーと工業用原料を輸入に頼ってきた。原料を高度に加工して輸出することで、つまり加工貿易モデルによって経済成長を実現させてきた。このモデルの主役は、最初は軽工業であり、次に重化学工業、電気製品、そして自動車産業に移ってきた。
しかし現在の産業界を俯瞰してみると、ほとんどすべての産業で、生産の中心が海外に移っている。昨年起きたタイの大洪水は日本企業の生産活動に壊滅的と言って良いほどの打撃を与えた。高度なICチップの生産ですら、現在は新興国が主体となっている。この十数年、自動車産業は急速に現地化が進んでおり、海外生産比率は5割を超える。日産の海外生産比率は70%である。しかしそれでもなお、日本の自動車業界は国内生産を停止することを考えたことはない。たとえば日産は現在でも毎年100万台の生産体制を維持している。