周牧之VS横山禎徳対談
編集者ノート:新コロナウイルスパンデミックで、世界の都市がロックダウンに揺れている。人々はグローバリゼーションの行方を憂いている。今後のビジネスのあり方やサプライチェーンの将来などについて、周牧之東京経済大学教授と横山禎徳東京大学総長室アドバイザーが対談した。
1.グローバルサプライチェーンはどこへ向かうのか?
周牧之:新型コロナウイルスパンデミックが、グローバリゼーションにどう影響を及ぼすのかについて、関心が高まっている。グローバリゼーションにはさまざまな側面があるが、サプライチェーンはその重要な一つである。
20年前私は、サプライチェーンのグローバル的拡張が、中国で長江デルタ、珠江デルタ、京津冀にグローバルサプライチェーン型の巨大な産業集積を形成し、その上に三大メガロポリスが出現すると予測した。私の予測は見事に的中し、現在上記の三つの地域に巨大規模のグローバルサプライチェーン型産業集積が出来上がった。三大メガロポリスも、中国の社会経済の発展を牽引するエンジンとなっている。
しかし新型コロナウイルスショックで、グローバルサプライチェーンは寸断され、さらに米中貿易摩擦が追い打ちをかけ、三大メガロポリスがベースとなる産業集積の様相に異変が起こっている。
横山禎徳:グローバリゼーションを補完する概念としてリージョナリゼーションがある。例えば、グローバルに人気のあるドイツの自動車を支える企業群はバイエルン州に集中して自動車のエコシステムをしっかりつくっており、州政府もそのシステム育成に注力している。日本でもトヨタの三河、ホンダの栃木などもその例だ。グローバルなサプライチェーンの展開を現在も補完している。多くの製造業のサプライチェーンにおいても同様な傾向がある。リージョナリゼーションがしっかり確立しているから逆説的にグローバルなサプライチェーンを展開できるといえる。
一方、ナショナリゼーション、あるいはナショナリズムはグローバリゼーションの対立概念だ。それは国家権力と結びつく。すなわち、グローバリゼーションを規制する法律があり、強制力もある。今回のCOVID-19はグローバリゼーションの一側面として人の自由な移動が世界的蔓延につながったが、その防護には移動制限、入国禁止という国家権力の発動になったのはご存知の通りだ。
日本は戦後、国家権力の強大化に対する不信というか、アレルギーがあり、中央政府は国民に対して要請はできても命令はできない。その結果、リージョナリゼーションが明確に表れてきた。今回、COVID-19に対する拡大防止として主要な県の知事が独自の対策を打ち出したのがその例だ。
周牧之:ひと昔前は、サプライチェーンは国民国家の中に留まっていた。いま横山さんが挙げた例にもあるように、日本のある自動車メーカーのサプライチェーンは、ほぼ半径50キロメートル内に収まっていた。サプライチェーンがグローバル的に拡張する時期は、ちょうど中国の改革開放期と偶然に一致した。その結果、中国はサプライチェーンのグローバル展開の受け皿となり、大きな恩恵に預かった。中国の輸出規模は、2000年から2019年まで10倍に膨らんだ。
サプライチェーンのグローバル展開を推し進めた三大要因として、IT革命、輸送革命、そして冷戦後の安定した世界秩序から来る安全感が挙げられる。
グローバルサプライチェーンは、西側工業諸国の労働分配率の高止まりを破り、地球規模で富の生産と分配のメカニズムを大きく変えた。
中国の経済発展は、グローバルサプライチェーンによってもたらされた部分が大きい。それゆえ2007年に出版された拙著『中国経済論』の中で、第一章を丸ごと使い、中国経済発展とグローバルサプライチェーンとの関係を論じた。
しかし近年、中国とグローバルサプライチェーンとの関係に多くの変化が生じた。まず、中米貿易摩擦に対して不安感が生じた。第二に、中国での労働力、土地などコストがかなり上昇したことである。
当然、アメリカの産業空洞化も大きな圧力となってきた。これが、トランプ大統領を当選に導いた主要な社会基盤でもあった。
横山禎徳:グローバリズムの補完概念はリージョナリズムだと思っている。リージョナリズムはグローバリズムと共に永遠に存在しているだろう。しかしナショナリズムはグローバリズムに対立するという意味で厄介な思想だ。
日本も保護主義と言われ実際保護して来た。それを緩めたときに知財の国外流失につながった。