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japanese.china.org.cn |22. 07. 2020

コロナ禍で、如何に危を機にしていくか?

タグ: サプライチェーン


 2.製造業の交流経済化


 周牧之:歴史的に見ると、サプライチェーンのグローバル化は農産物から始まった。古代の東西貿易の主なアイテムはシルクにしろ、胡椒、綿花、砂糖、茶にしろ、農産物をベースにしたものが多い。他の地域からこうした農産物を獲得することが大航海の原動力であった。その後、食のサプライチェーンはグローバル化の一途を辿った。


 私の故郷、湖南省は稲作文明の発祥地とされている。典型的な自給自足経済であった。ほぼすべての食品は自分で生産したか或いは市場で周囲から調達したものであった。フードチェーンは短く、かつ可視であった。


 横山禎徳:隋の煬帝が大運河で南のコメを北へ持って行こうとした。何故、気候も温暖で食料も豊かな南部ではなく、北部に首都を構えたのか私には理解できないが、結果的に、後世に素晴らしい物流ネットワークを残したのは良かったのだろう。


 周牧之:中国の国土は、北は雨量が少なく、南へ行くに連れて温潤になっていく。よってその国土は、北部に騎馬民族エリア、小麦をベースにした農耕地帯があり、そして南部には稲作地域が広がる。稲作は生産性が高く安定している故に自給自足経済になりがちだ。あまりにも豊かで、小さいエリアで小さい幸せに満足する(笑)。帝国的な軍事力にも政治力にも興味が湧かない。それに対して、北部は、天候に収穫が大きく左右される。騎馬民族の南下にも常に翻弄される。騎馬民族と混ざった軍事的なパワーが巨大化し、王朝交代の原動力になっていく。それゆえに、統一王朝の首都のほとんどは、北部に構えた。


 コメは北になかったから元も明も清も、運河でコメを北へ運んでいた。新中国では鉄道を使った。私の幼い時は北から石炭を南へ、南からコメを北へ鉄道で運んでいたのをよく目にした。


 しかし、いまや中国の南の人々も、日本と同様、全国から、さらには世界から食の調達をするようになった。フードチェーンそのものの可視化が不可能となり、追跡もできなくなった。


 日本も典型的な稲作文明で、農村の原風景は湖南省によく似ており、典型的な自給自足の世界であった。しかし、いま日本の食料供給は、カロリーベースで60%以上を輸入に頼っている。


 横山禎徳:一方、金額ベースでは輸入依存度は30%程度である。ということは、日本人は高くてあまり栄養のないものを好んで食べているということだろうか。しかも、近年、一人当たりのカロリー摂取量は2,000キロカロリーを切った。OECD諸国では最低である。しかも、輸入食糧を含めて一人当たり、毎日500キロカロリー以上を捨てている。


 周牧之:そのようなネガティブな面もあるのだが、全体として食のサプライチェーンのグローバル展開は、食の供給の効率を大幅に高めた。しかしこれは、小作農を主体とした日本の農村、農業、農民には大きな打撃となった。海外から非難を浴びながら、日本政府は農業の保護政策を続けてきた。1961年に施行された農業基本法も生産性向上より直接的な農家保護に重点があった。それにも関わらず、というか、生産性向上による競争力の強化がされないまま、日本の農業も輸入食品に圧迫され、大いに苦しんでいる。より深刻なのは、輸入食品の安全管理が困難を極めることである。

 

 近年、ネットの発達によって、日本では農家が直接消費者と取引するケースが増えてきた。戦後、農産品供給の規模化と効率化を推し進めてきた農協や、スーパーマーケットなどがスキップされる現象が起こっている。コロナ禍で、こうした傾向が強まっている。

 

 横山禎徳:スーパーマーケットによる契約農家の効率よい管理を基盤に、国の安全基準を満たし、見てくれのいい大量販売の作物よりも、契約農家が自分の家族に食べさせている作物がみてくれがわるくても、一番安全で味もいいことに消費者が気付き始めた。


 周牧之:“作り手が見える農業”は農業生産の上に、コミュニケーション、信頼、品質そして感性まで含まれている。これは農産品の付加価値を高めるだけでなく、農業自体をさらに魅力的にしている。近年、日本の農学部に進学する女子学生の割合が増えてきた。まさしく若い人たちによる農業への回帰である。


 横山禎徳:農業はシステムである。そのシステムがいま生産、加工、消費が連動し、様々な組み合わせで変わろうとしている。しかし、それを、「いわゆる第6次産業化が進んでいる」と捉えるべきではない。「第1次、第2次、第3産業を一体化し第6次産業化して付加価値を生む」とは言葉だけで具体的な方法論がない。


 「産業」という伝統的な分類に固執せず、産業を横串した「社会システム」として発想すれば、付加価値創造の可能性が大量に見えてくる。第6次産業ではなく、食糧供給システムとして捉えるべきだ。現在の漁業もハンティングから「栽培」に変わらないと資源の維持管理ができない。そうなると農業も漁業も同じ食料供給システムという効率的だが多様性を生かすプロセスに乗るのである。

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