文=中国物流研究会幹事 福山秀夫
今年は「一帯一路」10周年に当たる。「一帯一路」構想の中身を見ると、経済政策、インフラ整備、投資貿易、金融、人的交流の五つの分野がある。インフラ整備の分野では、最も重要な部分が東アジア・欧州の2大経済圏をつなぐ陸上・海上大通路の建設で、これはすなわち陸のシルクロードと海のシルクロードの建設ということになる。うち陸路は「中欧班列」を指す。
アジアと欧州の物流に貢献
この10年における「一帯一路」、特に中欧班列がアジアと欧州の物流にもたらした影響について、私は5点が挙げられると思う。
まず、グローバルなコンテナリゼーションの発展に貢献した点。米国生まれのコンテナリゼーションは、世界に拡大し、グローバルな海上ルートと大陸鉄道輸送を生み出し、北米大陸とユーラシア大陸ではランドブリッジという国際複合輸送を生み出した。ユーラシア大陸では、従来のシベリア・ランドブリッジに比べると上海や寧波、重慶、成都など中国の多数の沿海港湾や内陸国際陸港から出発できる中欧班列は、リードタイムが比較的短く、利便性が高く、ルート選択が比較的自由という特徴がある。グローバルな視点から見ると、港湾と鉄道の技術的な発展により、貨物の積み替え荷役が速やかに行われるようになった。また、船舶と港湾と鉄道の高度な連携により、国際陸港という自由貿易区の国際港務区を形成し、米国よりさらに発展したシステムになっていると考えられ、グローバルなコンテナリゼーションに新たな息吹をもたらしたと言えよう。
第2に、ユーラシア大陸横断鉄道コンテナ輸送をグレードアップした点。現代の進歩的な技術により、中欧班列は輸送貨物の幅を広げ、リーファー貨物まで輸送できるようになった。さらに、阿拉山口やコルガス(霍爾果斯)などのコンテナセンター駅や口岸は、鉄道設備や荷役設備の現代化、積卸の自動化、積み替え技術の近代化、通関手続きの効率化を実現し、沿線各国の鉄道輸送の現代化にも大きな影響を及ぼし、コンテナ輸送のレベルアップにもつながった。
第3に、国際複合一貫輸送上の新しいサプライチェーンを構築した点。コロナ下で中欧班列の輸送量は伸び続け、中欧班列は、初めて海上輸送の補完的輸送手段と位置付けられた。それまでは、空と海の中間手段という第3の輸送手段だったが、国際陸港の構築などの努力により、沿海部からも内陸部からも中欧班列を出発させることが可能となり、その地域の企業のみならず、進出している外資にとっても信頼できるサプライチェーンと見なされるようになった。
第4に、東アジアの巨大な国際物流ネットワークインフラを形成した点。中欧班列と中国・ASEANクロスボーダー輸送の接続(欽州港をハブ港としたアジア域内航路との接続、中越<中国-ベトナム>・中老<中国-ラオス>・中緬<中国-ミャンマー>鉄道との接続も含む)、中部陸海連運大通道による中欧班列と北東アジア航路(日韓航路等)との接続、北東アジアの国際高速船を活用した日韓発貨物と中欧班列との接続、その他コンテナ船と中国主要港湾と中欧班列との接続など、東アジアの国際物流のネットワークが大きく変貌しつつある。
1~4の成果をもとにさらに発展していけば、日中韓ASEANの東アジア国際複合輸送共同体が、将来的には東アジア物流全体のサプライチェーン、バリューチェーンの最適化のために必要と考える。「一帯一路」の10年間は、まさに東アジア国際複合輸送共同体形成の道を開いたと言える。
ポストコロナ時代にも期待
前述の通り、コロナ下では中欧班列が急成長を果たした。新型コロナの影響で、欧州航路は海上運賃が高騰し、飛行機も飛ばなくなったことで、代替輸送として中欧班列が大変大きな役割を果たしたのである。数字から見ると、2011年の中欧班列の便数は17便、コンテナ数は1000TEUだったが、22年は1万6562便で161万4000TEUにまで成長し、今年はさらに180万TEUを超えるかもしれない。もし中欧班列がなかったら、欧州航路の港湾混雑は米国同様のひどい状況を経験しただろう。
現在は海上運賃が下がるなどして、国際海上コンテナ輸送が正常化に向かっている。ポストコロナにおけるコンテナ輸送正常化の時代においても、中欧班列が成長を保ち、海上輸送を計画的に補完するサプライチェーンの最適化の役割を担うようになると予想する。
また今後、中央アジア地域がサプライチェーンやバリューチェーン形成の中心的な地域と位置付けられる時代になると思う。カスピ海ルートが拡充されており、中吉烏(中国・キルギス・ウズベキスタン)鉄道開発も今年から建設が始まる予定だ。中吉烏鉄道が開通し、阿拉山口とコルガスの二つの口岸にカシュガル(喀什)を加えた三つの口岸になれば、中欧班列は昨年の年間約161万TEUの輸送量をはるかに超え、将来的には300万TEU程度にはなるのではないかと考えている。この程度の輸送量になれば、海上輸送の計画的補完ルートになるほどの重要な地位を占めるようになると予想し、期待している。
RCEPとの連携
RCEP(地域的な包括的経済連携)協定の発効により、「一帯一路」とRCEPの連携による東アジア域内のサプライチェーンの変容が、現在起こりつつあると考えている。
その中で、重慶-欽州港をメインルートとし鉄道を中心とする西部陸海新通道や、武漢新港と日韓の港湾を利便性の高い直行コンテナ航路で接続する中部陸海連運大通道が、それぞれASEANとの連携輸送、日韓との連携輸送を実現し、徐々に知名度が高まり、顧客の信頼を得ている。これらが安定すれば、上海経由で長江を上がってくる北東アジアの貨物が、重慶でASEANの貨物と集約できる体制が出来上がり、中国・ASEAN地域が、自由なルート選択とサプライチェーンの構築可能な分業生産の拠点になる可能性が大きくなると考えている。
これを北東アジア物流と東南アジア物流の一体化と私は呼ぶ。一体化という現象が起こり、東アジア全域の経済活性化を生み出し、中国西部とASEANの経済圈一体化による東アジア経済の発展が期待できると考えている。もちろん、これはリードタイムが最も重要で、コスト削減、安全確保、ダメージ低減も重要だ。これには、日本と中国、韓国、ASEAN各国の政府が協力して取り組む必要がある。 (聞き手・構成=李一凡)
「人民中国インターネット版」2023年10月17日