文=小林正弘
清華大学法学博士
Genuineways Law Firm パートナー
5日に開幕した第14期全国人民代表大会(全人代)第3回会議において、李強総理による政府活動報告が行われ、デジタル経済について、「デジタル経済の革新を促進する。『AI+』の活動を継続的に推進することで、デジタル技術と製造業の優位性および市場の優位性を効果的に統合し、大規模モデルの広範な応用を支援し、スマートコネクテッド新エネルギー車、次世代スマートフォンやスマートコンピューター、スマートロボットなどの先端スマート端末およびスマート製造設備の発展を推進する」と述べた。
中国発の大規模言語モデル「DeepSeek(ディープシーク)」が今年1月末に発表されてから1カ月程の間に、世界的な注目を集めただけでなく、中国国内の一部行政サービスではすでに実際にAI公務員が実用化され、さらに各地方政府では現地の行政関連データでトレーニングし、地方行政に特化したAI行政サービスシステムが開発されるなど行政の効率化が驚くべきスピードで進んでいる。
DeepSeekなどのAI技術は行政分野のみならず、自動運転、製造業、医療、サービス業などデジタルデータの分析・処理を必要とするあらゆる産業分野での活用が実際に開始されており、中国政府が掲げる「新たな質の生産力」を柱とした産業構造改革を一層加速させることになる。これにより、中国で開発・製造される商品や提供されるサービスの質はさらに向上を続け、国際競争力を一段と強めていくに違いない。
例えば、医療の分野では、清華大学がAI病院の開発を進めており、本年上半期には42名のAIドクターによる診療サービスが開始されるとの報道がなされている。高水準の医療サービスが24時間、低廉な価格で提供されれば医療地域格差に苦しむ多くの民衆の大きな希望となるだろう。教育分野においては、筆者の娘が通う北京の現地小学校の新学期開幕式でDeepSeekの開発研究者が学生に向けてAIについての講演を行い、家庭内ではAIを使って宿題を行うなど小学生レベルでの普及も広がってきている。今後、中国ではAIを使った教育の先進的な取り組みも行われ、AI技術を操る次世代人材が陸続と輩出されていくだろう。
他方で、中国国内でもAIによって生成された情報の正確性、個人情報保護、AIによる失業などを懸念する声が上がっている。また大規模な自然災害などによりAIが使用不能となった時に頼りになるのは人間自身の力である。AIの応用が社会の各分野で急速に広がる中で、人間がより賢く適切にAIを使いこなすと同時に、人間本来の価値を探求し、その価値を一人ひとりが存分に発揮できる社会を如何に建設するか、これは世界各国共通の課題でもある。中国におけるAI技術革新がAIとよりよく共存した産業発展と社会建設を促進し世界の民衆の幸福に寄与することを切に期待したい。
「中国網日本語版(チャイナネット)」2025年3月6日
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