授賞式の時に矢口高雄さん(右)と
もう一人は、第2回国際漫画賞審査員の矢口高雄さんです。「逝」が出版される際には序文として感想も書いてくれました矢口さんは授賞式で、「もう漫画家になる覚悟はしていますか。漫画家は大変な仕事です。あなたは今、漫画家ではなくアーティストのような雰囲気ですね」と暖かい言葉をかけてくれ、その後も文通をしています。
「釣りキチ三平」で知られる矢口さんは、尹川さんの「逝」の出版に寄せてこう記している。「私はこの作品を審査委員の一人として読んだのだが、その優れた画力と、何とも言えない気怠いムードのドラマ展開に新鮮な驚きを感じて金賞に押した。結果的には銀賞にとどまったが、中国人の漫画作品がついにここまで来たか、という深い感慨を覚えた。・・・・・・尹川さんの気怠くて退廃的な若者像は、これまでの中国漫画が一度も見せたことのない一側面だったので、実に新鮮そのものだった。言葉を換えて言えば、中国の若者たちも漫画というジャンルを駆使して、ようやくポツリポツリとその心情を吐露し始めたということだろう」
第2回国際漫画賞の受賞者と日本の漫画家が描いたキャラクター
――国際漫画賞を受賞作した作品「逝」について。
中国の漫画には、自国の若者を表現するものがまだ多くはありません。今の中国の若者は世界中の若者と同じように、ネットや映画、テレビを見て、ハンバーガーを食べますが、心の中は必ず彼ら独特なものがあります。ですから今の中国の若者の精神状態を表現しようと思ったのです。
この作品では、映画の手法を漫画に用いるという方法を試み、2006年の夏にそのあらすじを書き、2007年に絵を描き始めました。この作品には男女の主人公が会話を交わす場面が多いのですが、2人の対話という単調な描写を避けるために、違う角度にカメラを置いているように、にぎやかな町や高層ビルの屋上、室内、ホテルなど様々角度から描きました。漫画のいいところはカメラではどうしても撮影できない角度を描けることです。
――ほかに創作している作品は?
今年の新作漫画「禁忌」の表紙
尹川さんがデザインした歌手 斉秦 ( チー・チン )コンサートのポスター
「逝」は三部作の第1作目で、ほかに精神障害のある患者を主人公にした「念」と、若手作家を主人公にした「美」を創作しています。ストーリは出来上がっているので、年内には終わらせたいと思っています。