1985年、氏は西ドイツの大学で東方芸術の講義を受け持ち、美術館で展覧会を行った。ドイツ芸術哲学の彼への影響について聞くと、氏は「これは非常に面白い問題です」と、率直に言った。 彼は自分がドイツに行く前にも、周りの多くのアジアの若者がヨーロッパに行き、ヨーロッパというものを理解してくるのを見ていた。「のちにドイツに行ってから、ドイツ人、特に若者のアジアへの憧れを感じました。」たとえば、多くのドイツ人教授の家の壁の目立つところに、中国の明代や清代の絵画の複製品、あるいは印刷品が掛けてある。さらに、家の目立つ場所に中国の陶器が並べてある。これこそ東方文化の魅力、東方文化が西方文化を引き付けていることの証拠であると、彼は語る。
ドイツで、東方芸術の講義の準備をしているとき、学長は李庚氏にこう言った。「一年後、学生たちがこの講義に興味を持たない、あるいは出席者が半分以下に減った場合、講義は打ち切りにする。」しかし一年後には、人数は減るどころか増える一方で、大人気の講義となっていた。彼はドイツで講義を行うなかで、完璧な美学というものは、人類共通の美学に対して全体認知を持つのだという自分の観点を発展させた。「われわれが今日生活している空間は、交錯した空間だと言えます。中国文化の中にも世界じゅうのものが見られます。たとえば、現在、北京では多くの外国のものに触れることができ、世界各国の文化を理解することができます。ドイツで授業をしているときも、多くの学生の東方への憧れを感じました」と、氏は語る。異国の文化•芸術に対して真剣な態度を持ち、またドイツでの経験のため、氏は更に全面的な視野で西方を見ることができるのである。
1987年以降、氏は水墨画の研究に力を入れ、新スタイルを模索し、いくつかの細かい分野で数項目の研究を行っている。今まで日本の2つの美術大学で「水墨画研究」の授業を導入した。 90年代の初め、日本美術界の一部の国立美術館長と新聞界の美術部長からなる研究グループが、日本全国の画家の中から優れた人材を抜擢し、その「研究性」「革新性」を具えた作品を、毎年日本全国の10の美術館で巡回展示を行うという活動を行った。氏はこの活動の参加者として指名され、水墨作品を提供した。
絵画のほかに、氏は長期にわたって日本画、唐代の絵画、西域の絵画、ルネッサンス初期の芸術発展を研究している。「ドイツでは教学の余暇に、エッチングと北方ルネッサンスの初期絵画を研究していました。」と、彼は言う。ドイツ式のスケッチと東方絵画とは、構造的に共通するところが多いと彼は思っている。また彼は何度もイタリアに行き、ルネッサンス初期の壁画を研究し、ジオットの「聖フランチェスコ伝 」など、数人の有名画家の壁画を模写したことがある。こういった経験により、氏の水墨画作品は極めて前衛的でモダンである。
「中国は現在、目を見張るスピードで発展を続けていますが、もっと多くの若い芸術家がグローバルな視点をもちつつ、中華の伝統を発展させてくれることを願っています。芸術だけが、時空と国境を越え、人と人、民族と民族の間の理解を深めることができるのです」と、李庚氏は語る。
「人民画報」より2008年1月9日
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