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江原規由氏:動き出した人民元の国際化
発信時間: 2009-08-19 | チャイナネット

江原規由氏:新たな三国時代の始まりか 

日中貿易がマイナス成長に 日本貿易振興機構の江原規由氏

日中貿易がマイナス成長に 江原規由氏への取材

江原規由氏が金融危機と日中経済を語る

江原規由所長、アジアとアフリカの連携強まる

 

1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市旅順名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長を務めた。
1980年以前、中国に来た外国人や華僑、香港・マカオ・台湾の同胞は、持参した外貨を兌換券に換え、買い物などの支払いにあてたものでした。これが外貨兌換券です。しかしこれは1994年4月1日からの発行が停止され、翌年1月1日からその流通が停止されました。

90年代に入ると中国では、ようやく対外貿易が拡大し、対中投資も本格化して、世界経済における中国の存在が次第に意識され始めます。外貨兌換券の発行停止は中国経済の国際化が進展しつつあることを如実に物語る出来事であり、中国におけるちょっとした「通貨システム改革」でもあったのです。

増えるか、人民元建て決済

兌換券発行停止から数えて15年後の今年3月に開催された「両会」(注1)で、人民元の国際化が熱心に議論されました。経済の国際化を遂げた中国で、その通貨である人民元の国際化が議論されるのは、きわめて自然な成り行きでしょう。

実際、人民元の国際化に向けた措置『対外貿易における人民元決済』が試行されつつあります。現在、中国では対外貿易で使用できる通貨はドルにほぼ限定されていますが、国務院(政府)は地域限定ながら、珠江デルタ、長江デルタ地域と香港・マカオ(澳門)地域、広西チワン族自治区、雲南省とASEANとの貿易では人民元建て決済を試験的に行うことを決定しました(注2)。限定地域では、ドルを使うことなく直接、人民元で取引するということです。人民元建て国際決済では、昨今のドルの下落といったリスクの軽減や資金調達コストの低減などが期待できます。

こうした限定地域が拡大していけば、人民元の国際化につながる条件が醸成されることになりますが、そのためには、人民元決済を受け入れる国・地域が拡大し、貿易決済に必要かつ十分な人民元を保有していることが前提となります。

この点で、昨年12月以来、中国が矢継ぎ早に締結している通貨スワップ協定が注目されます。スワップ協定には対外貿易および直接投資を支援し、経済成長を促し、さらに金融市場の安定化に向け短期流動性を提供し合うことなどに狙いがあるとされます。

これにより、総額6500億元規模の流動性が提供されるわけですが、スワップ協定を結んだからといって人民元の国際化が急展開するというわけではありません。スワップ協定の対象国・地域が増えることは、「人民元の国際化のための必要な小さな一歩だが、人民元の国際的地位は向上している」(注3)という意義があるといえます。

スワップ協定以外では、中国はロシア、モンゴル、ベトナム、ミャンマーなど周辺8カ国と、『決済通貨の自主的選択に関する協議』に署名しています(注4)。人民元を国際貿易などで決済通貨として考慮しつつある国・地域が増えつつあるのは事実でしょう。

低くないハードル

人民元の国際化の動きと対極にあるのが基軸通貨であるドルへの信頼性が低下していることでしょう。4月2日の金融サミット(G20)で、胡錦濤国家主席は国際金融システムの見直し案を提言、為替相場の安定を維持するため積極的な姿勢をアピールしました。

建設中の北京金融街。ここに中国人民銀行本店などの金融機関が入る(新華社)

また、周小川中国人民銀行総裁が、国際金融システム改革の具体案として、国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)を世界的な準備通貨とする提案を行いましたが、G20では、SDRを新規に2500億ドル配分することが決定されました。中国の提案が生かされたといえるでしょう。

外貨兌換券が流通していたころ不足していた中国の外貨準備残高は、今や世界第1位(2008年末時点でほぼ2兆ドル)で、中国は世界でもっとも多くの米国国債(7400億ドル)を所有しています。国際通貨システム改革への中国の発言権は決して小さくはないはずです。

さて、人民元の国際化ですが、今後、国際通貨システムの改革とも大きくかかわってくるでしょう。人民元による国際決済が増え、国際通貨システム改革が論議される今日、人民元の国際化に追い風が吹いているのは確かです。

ただ、人民元の国際化までに乗り越えなくてはならないハードルは決して低くはありません。人民元の国際化、すなわち、人民元が国際通貨になるには何より人民元の自由兌換性が確保されねばなりません。が、中国の金融市場はまだその実力が備わっていないとみる内外の識者は少なくありません。ロシアのクドリン副首相兼財務相は人民元が国際通貨になるまで、さらに15年はかかるだろうと見込んでいます(注5)。

この点、中国のメディアでは「超車心態」(前の車を追い越す時のドライバー心理)という四語熟語が目立ちます。いつアクセルを踏み込んで追い越すのか、前の車が横にそれて追い越させてくれるのを待つのか、つまり人民元の自由兌換にいつ踏み出すのか、国際通貨システム改革を期待して中国の発言権を大きくしてその機が熟するのを待つのか。

人民元が名実ともに国際化を遂げてチャイナ・パワーを発揮するまでにはもうしばらく時間がかかりそうです。

注1

第11期の全国人民代表大会と中国人民政治協商会議の第2回会議のこと。

注2

『中国証券報』ネット 2009年3月12日など。

注3

潘英麗・上海交通大学国際金融センター主任、人民ネット2009年2月10日。

注4

『第一財経日報』2008年12月12日。 注5 モスクワ3月31日ロイター=4月1日『時事速報』

 

「人民中国インターネット版」より 2009年8月19日

 
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