小康社会実現のための本質的問題を考える=日本人学者

小康社会実現のための本質的問題を考える=日本人学者。

タグ: 小康社会 13・五計画 高見澤学

発信時間: 2016-03-07 11:51:14 | チャイナネット | 編集者にメールを送る

日中経済協会北京事務所副所長 高見澤学

今回の全国人民代表大会(全人代)で、第13次五カ年計画(以下「13・五計画」)の要綱が議論され、発表される。その主要な論点の中で、我々経済に携わる者にとって最も注目される問題の一つは、中国経済が新常態に入りつつある中で、中国政府が如何に経済の中高速の成長を維持し、2020年までに都市・農村住民の一人当たりの所得を2010年比で倍増させるかにある。もちろんその目指すところは、中国国民にとっての全面的な小康(ゆとりのある)社会の実現であることは言うまでもない。

経済の中高速の発展に限らず、五中全会で発表された13・五計画策定に関する党中央の提案に盛り込まれた国民生活の水準・質の普遍的向上、国民の素養・社会文明のレベルアップ、生態環境の総体的改善、制度の成熟と定型化といった具体的目標は、あくまでも小康社会を目指す上での客観的な現象でしかない。小康社会にとって、最も大事なのは国民が実際に感じる幸福感にあるのではないだろうか。如何に所得が増え、大邸宅に住み、部屋が好みの品物で溢れても、本人が幸せであると感じなければ何の意味もない。

翻ってここ数年の中国経済を顧みると、経済成長の減速が叫ばれてはいるが、比較する基準が毎年増え続けている現実からいえば、成長率が多少下がったところで、実際に増加するネットでの経済規模で比較をしてみなければ、本当に減速しているのか否かは明確に判断できない。確かに過剰生産設備や環境汚染、株価下落など懸念する問題は少なくない。しかし、国民の消費活動は一向に衰える気配を見せず、中国経済の底力を感じざるを得ない。現実に、中国では今、庶民が自動車を運転し、海外に出掛けて観光や買い物を自由に楽しめる時代になっている。前世紀末には考えられなかった光景である。こうした現実を目の当たりにすると、小康社会はもうすでに到来しているのではないかと思ってしまう。

物質的な豊かさや生活の便利さでは、以前と比べれば国民全体の満足度は大幅に高まっているに違いない。しかし、物質的な満足度が直ちに幸福度につながるかといえば話は別である。人々が幸福感を感じるためには、精神的な豊かさを追求することが重要である。これが小康社会実現の大前提となる。経済学者やエコノミストの間では、13・五計画期間中の経済成長の目標数字がどのくらいになるのかとよく議論されてきた。私自身、正直なところそこに問題の本質があるとは思えない。数字はあくまでも指標であって、重要なのは前述したように国民がどう幸福感を感じるかにある。

小康社会といえば、私自身、日本の江戸時代を思い浮かべる。我々が教科書で学んできた江戸時代は、「士農工商」という身分制度で縛られ、職業選択の自由はなく、庶民は貧しい生活を強いられていたかのイメージであった。しかし、私が仲間と一緒に独自に研究を続けた結果、江戸時代はかなり優れていた社会であることが分かった。渡辺京二著作の『逝きし世の面影』には、幕末に日本を訪れた西洋人の思いが記されており、当時の日本が如何に豊かで清潔で安全であったかを彼らが証言している。

江戸が完全なる循環型社会であったことは、今では広く知られているが、このほかにも、寺子屋教育によって日本全体の識字率が当時の欧米に比べ極めて高かったこと、住民同士の自治によって街の安全が相当保たれていたなど、欧米人からすれば当時の日本はユートピアのように感じていたようだ。事実、江戸時代にはそれ以前の社会では見られなかった現象が起きている。それは庶民の文化が生まれ育ったことである。もともと文化は貴族社会や武士階級において存在してきたものであり、庶民は食べることに精一杯で、生活そのものを楽しむゆとりなどなかったのだろう。それが、江戸時代後期にもなると、歌舞伎や浮世絵、川柳や滑稽本など、庶民が楽しめる文化が流行し始めたのである。文化が生まれるには、当然人として生きていくための基本生活に係る問題が解決されていなければ実現するはずもない。つまり、中国でいわれる温飽社会の基本的な実現があって、はじめて次の小康社会が実現されるという典型的なモデルが江戸時代にあったことになる。

小康社会実現のために、もちろん数々の数値目標を達成することも必要だろう。しかし、数字では計ることができない本質的な問題を忘れてはならない。我々東洋の歴史の中に、問題解決の鍵が隠されている。

(本稿は筆者個人の意見であり、中国網や所属機関を代表するものではありません。)

 

「中国網日本語版(チャイナネット)」 2016年3月7日

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