文=小林正弘
清華大学法学博士
Genuineways Law Firm パートナー
巨大経済圏構想と形容される「一帯一路」が発表されてから10年を迎えた。報道によると、この10年間に、150以上の国と30以上の国際機関が「一帯一路」共同建設ファミリーに加わり、今後の世界経済の行方を左右するグローバルサウスと呼ばれる新興・途上国も多く参加している。新興・途上国に対し、単なる資金協力のみならず、職業訓練を通じたインフラ開発に必要な技術習得の支援を行うなど、より深いレベルの経済協力プラットフォームへと発展している。
このような経済的側面のみならず、「一帯一路」は文化交流の深化によって各国の文明・文化面の発展、ひいては人類文明に調和的発展をもたらす大きな可能性をも秘めている。2017年から3年にわたりウズベキスタンにて中国文物修復専門チームがヒバ要塞古城遺跡の修復保護に取り組み、2000年の時を超えてその威容を現代に蘇らせることに成功し、ウズベキスタン政府およびユネスコからも高い評価を得た。そこには、70年にわたる敦煌遺跡保護で培われた熟練の修復技術と最新デジタル技術が生きている。そして、朽ち果てていた敦煌莫高窟の修復・保護に一生を捧げた敦煌の守り人・常書鴻氏をはじめとする中国の芸術家、中国の仏教芸術に魅せられ、その保護に尽力した日本の著名な画家・平山郁夫氏など、偉大な先覚者達の人類文明保護の尊き精神が脈絡と受け継がれているように思えてならない。
かつてのシルクロードの歴史を振り返ると、敦煌の仏教芸術に見られるように他民族文化に対する尊敬と崇重の念に基づいた対等な相互交流によって、異文化の受容と融合がなされ、その精神的な恩恵は極東の日本にまでもたらされた。戦争やテロ或いは経済侵略や文化侵略とは対極にある文化遺産の保護活動は、人類文明の多様性と世界の調和を育む。後世の人類文明にもたらす精神的恩恵は、経済的価値に換算することのできないものである。多くの人々がシルクロードという言葉に悠久のロマンを感じるのは、そこで人間と人間の交流、とくに心と心の交流が連綿となされてきたからこそだと思う。
「一帯一路」が今後、さらに世界各国の文化保護と相互交流に注力し、文化の全領域にわたり人と人の心を繋ぐ「精神のシルクロード」として人類文明の進歩に貢献することを切に期待したい。
「中国網日本語版(チャイナネット)」2023年10月18日