「ジャパニーズオンリー」の張り紙は特殊業界のみ
さらに朝日新聞の報道した事例は、数が少なく特殊なもので、わずかに風俗産業(性風俗、バー、カラオケ店など)でしか見られないものだ。沖縄ではそのような店はわずかしなく、「ジャパニーズオンリー」の制限があっても問題はない。しかも制限している相手は米軍の兵士であって、中国人や中国系の人たちに対してではない。筆者もかつてそのような張り紙のある那覇市の居酒屋に行ったことがあるが、外国人だからといって入店を断られることなどはなかった。
「ジャパニーズオンリー」の張り紙がよくあるのは、酒に酔った客が騒ぎを起こしやすい場所での無用の面倒を避けるためである。多くの外国人、とりわけ米国兵は飲むと大騒ぎをし、けんかをしかけ、ときには刑事事件を引き起こす。こうした理由から、店側では「英語がわからないので仲裁などができません。ですから日本語のわからない方はご遠慮ください」という意味で「ジャパニーズオンリー」の張り紙を掲示しているのである。
私は3年前沖縄で、米兵士同士の酔った上での派手なケンカに出くわしたことがある。そのときは米憲兵、米警察、日本警察が出動した。道路が渋滞し、住民の生活や商売に大きく影響した。また何年か前には、米海軍海兵隊の若い大尉から学生証を手に入れてほしいと頼まれたこともある。那覇市内では米軍人の居酒屋やカラオケ店への入店が禁止されており、学生証が必要だったのである。
沖縄の飲食店は日本の県の中でも飲食店が最も多いが、外国人(米兵)の入店を制限している店はごくわずかだ。これらの店はトラブルが発生したときに会話が通じないために外国人の入店を断っているのであり、もし日本語のできる者を連れていれば、入店に問題はない。また外国人の来店を拒むのはその店のオーナーの考えであって、なんら「日本の新しい動き」などではない。私が現地の住民に聞くと、皆びっくりして「外国人を排除することなどありません」と答える。
また掲示をしている店のオーナーに聞くと、たいてい「差別するつもりなど全くありません」という返事が返ってくる。そして張り紙の表示を「日本語だけ」に変え、値段表と店内のルールに英語の翻訳を付け加える。「話が通じさえすればいいのです。トラブル発生と国籍は関係ありません」ということのようだ。またかつて「ジャパニーズオンリー」の張り紙を表示していたという神戸のある店のオーナーは、「親切な人が『この表示はよくない』と教えてくれました。それですぐにとりました」と話してくれた。
ところで、こうした店の張り紙は日本文化のある側面を象徴していると思われる。日本人は、自分の静かで秩序ある生活環境を外国人に邪魔されることをとてもおそれる。そのためにトラブルが起きないように、先の店のオーナーのような行動をとりがちである。だがこれは日本における『一般的な現象』でないことは明らかだ。先の朝日の記事にもあるように、「不適切である」と人から指摘を受けたオーナーは、張り紙をすぐに取り外している。法務省の2013年の統計によれば、日本で長期生活する日本人は208万人。彼らが日本文化に適応するためには、多少も摩擦もありうる。しかし朝日新聞の挙げた例は、偶然の出来事としては存在するものの、日本で生活するすべての外国人に影響を与えているわけではない。