暑い夏であろうと寒い冬であろうと、ビール店で時間を過ごすことが朝鮮の人たちにとってなによりの楽しみである。朝鮮の首都、ピョンヤンにはビール店が数多くある。高級ホテルの中にもあるし、街の路地にも朝鮮風の小店が並んでいる。まさに“ビール一杯”が彼らにとって憩いのひとときである。
ビール店の大きさはさまざまだが、店が開くのはたいていお昼か夕方である。高級ホテルのバーには、ジョニ黒やハイネケンなどの有名な西洋の酒、ビール、焼酎、カクテルが置いてある。また中国の白酒も置いてあった。以前に客が注文したことがあったという。
カクテルが飲みたければ、カウンターの綺麗な若い女性に頼めばすぐに作ってくれる。西洋式のバーの中で、朝鮮の若い女性がシェイクしている姿を見るには、なかなかいいものである。
こうしたホテルのバーと違って、街中にあるビール屋の雰囲気は100%“朝鮮風”である。店の中には自分の家でつくったビールを出してくれるところもあり、その場で飲んでもいいし、家へ持ち帰ってもいい。値段ももちろん庶民的だ。
またピョンヤン市内には1000人が入れるビール店が、数年前にオープンした。店内にはテーブルがあるだけでイスがない。みんな立ち飲みである。
朝鮮のビールといえば大同江(テドンガン)ビールである。テドンガンビールの醸造技術はドイツから導入され、醸造設備は英国のウィルトシャーから輸入されたものだ。麦と米の配合の違いによって1号から7号までの全部で7種類の味が楽しめる。ただピョンヤン市内にそれらをすべて揃えた店はあまりない。慶興ビール店にあることはあるが、早いうちにいかないと売り切れてしまう。
酒と言えばつまみが欠かせないが、朝鮮のビール店で最も人気があるつまみは“脱皮”である。干しタラのことで、醤油をつけて食べる。片手に杯を持ち、片手で干しタラをつまみながら友と飲み交わす酒は、まさに至福のおいしさという。
“脱皮”の風味は独特であり、外国人には食べられないかもしれない。このため、いくつかの店ではピーナッツやフライドポテトなどの多くの人の口に合うようなつまみを用意している。テーブルの上に“脱皮”とフライドポテトが並んで置いてあるのを見ると、朝鮮と西洋が一緒にあるような不思議な感覚にとらわれる――という人もいる。