基礎教育関連部門 冷静さ呼びかけ
企業と政府が積極的に奮闘する中、日本の小中学校の教育のデジタル化はどこまで進んでいるのだろうか。基礎教育の管轄部門はこの現象をどのように捉えているのだろうか。東京都品川区の自治体・区の教育委員会事務局課長・和気正典氏にインタビューを行なった。和気課長は記者の予想外の答えを口にした。
品川区は東京の中心の沿岸地帯に位置し、東京で最も先進的な教育条件を有しているとまではいかないものの、東京の平均的なレベルを代表する地域である。品川区の小中学校教育のデジタル化のレベルは、小学校には20台、中学校には40台のパソコンが置かれたコンピュータールームを少なくとも1つ完備していること。これは小中学校のクラスの上限人数がそれぞれ20人と40人だからである。現在、一部の小学校で実験的に電子黒板などの製品が導入されているが、タブレットPCやiPadが授業に導入されるにはまだまだ程遠いようだ。それでも、和気課長は教育のデジタル化が早すぎると感じている。実施の過程において、機械や設備などのハードウェアの導入を重視するあまり、ソフトウェアの構築を忘れがちであると指摘する和気課長は、「どの学校にもコンピュータールームはあるものの、その使用率は、特に小学校では極めて低い。使用頻度が少なすぎて、口に出すのも恥ずかしいくらいである」と明かした。
和気課長は「現代の社会では教育のデジタル化理論が流行しており、企業は必死に学校に最新の製品をPRする。政府の各部門も教育での最新の情報通信技術を使用することの重要性を積極的に強調している。しかし、教育のデジタル化の全面的な普及にはまだ問題が山積みである。まず、脳科学や心理学的な観点から教育のデジタル化に対しての総合的な研究が行なわれていない。このような新たな教育方法が青少年の心身の成長と学習能力にどのような影響を及ぼすかについての分析が行なわれていないのだ。先生が電子黒板を利用して授業を行なう際、生徒が積極的に参加しているように見える。生徒は皆、興味津々に電子黒板を見つめるため、先生は生徒が全員理解したと勘違いしてしまうこともある。また、教育のデジタル化を全面的に推し進める場合、教育大網そのものの改正を行い、教師一人一人に対し、再度指導を行なう必要もある。現状ではそれが難しい。パソコンやネットワークに比較的関心が高い先生がいる学校で、仮に新たな教育方式を導入した場合でも、その先生が学校を離れれば、全ては元に戻ってしまう」と説明した。
品川区は2000年には早くも、小中学校のデジタル化プロジェクトを開始している。全ての学校にコンピュータールームを設置し、先生には1人1台パソコンを与えた。しかし近年、電子化とデジタル化の大きな波が学校にどんどん押し寄せる中、教育委員会は情報化の歩みを止め、反省を始めた。2010年、品川区教育委員会は、授業での情報通信技術の合理的な使用についての研究を行なう特別委員会を設置した。その委員会の責任者として、和気課長は、「現在のデジタル化の流れについていけないと感じている先生方が多い。一つにデジタル教育の効果が権威的な学術論文によって証明されていないこと。二つ目にデジタル化に対応する準備をしていない先生が大半であるため、企業が積極的に品川区の学校にiPadを贈呈しようとしても、教育委員会は断らざるを得ない。もちろん、費用も考慮しなくてはいけない点である。ハードウェアは無料でも、その後の維持費はバカにできないものだ。義務教育であるため、学校としても勝手に新しいデジタル教材を導入しておきながら、保護者にその費用を徴収することはできない。もし今後、政府がタブレットPCやiPadを利用して教育を行なうことを求めるのなら、国がそれ相応の財政補助金を出すべきである」と述べた。
iPadの導入はいつ頃になるかとの質問に対し、和気課長は「教育委員会はまだ如何なる計画も立てていない。今後、学校が試験的に実施して、確実に効果を実感し、導入への要求を出せば、教育委員会も導入を考えるだろう」と答えた。「企業は毎日のように新製品を学校に売り込みに来るが、今はまだ断ることしかできない。学校側が主動して企業に具体的な機能を持つ製品の開発を提案できた時、初めて学校は真に新製品を導入する能力を持ったと言えるだろう」。和気課長は人々に教育のデジタル化の流れを慎重に受け止め、子どもに何を学ばせたいかを冷静に考える必要があると呼びかけた。「もし青少年が最も基本的な知識や能力でさえも、パソコンやネットワークなどのデジタル端末に依存するようになってしまったら、本末転倒な結果を招くことになる」と指摘した。
「中国網日本語版(チャイナネット)」2012年4月9日