芸術にとって何よりも大事な要素は、「ハート」だ。自分が感動してはじめて、他者を感動させることが可能となる。自分を信じる心があってはじめて、他者を説得することができる。
食をテーマとしたドキュメンタリー番組「舌尖上的中国」が話題沸騰中だ。数多くの人々が、深夜に放送されるこの番組を観るために、眠い目をこすりながら起きている。観た後は、涎だけではなく、感動の涙を流す人も少なくない。
番組名からしても、放送時間からしても、元来は地味でぱっとしないマイナー番組だ。ところが放送開始後、意外にも大ヒット、食に関して「グルメ」を超えたことを考えさせられる番組となった。
哲学者フォイエルバッハが語った言葉に、「人間とは、その人の食べたものである」という名言がある。番組第一回から「舌尖上的中国」は、単なる「グルメの記録」の枠に収まる番組ではなかった。掘りたてのタケノコ、吊るされたハム、網にかかってピチピチ跳ねる魚、真っ白い湯気がもうもうと立つせいろ、アツアツのマントウ、板の上に叩きつけられ引き伸ばされる麺など、あらゆるシーンが感動を呼び、思わず涙がこぼれる。中国に対する愛着が心の底から湧いてくる。「舌尖上的中国」から味覚の原点に行きつくまで、番組に貫かれる重たく荘厳な雰囲気が、ほかに類を見ないこの番組の特徴だ。ここには、グルメという入り口を通して、中国人、人と食物との関係、人と社会との関係について多くのことが語られている。
思わず暖かい感情に満たされるこのドキュメンタリー番組を見て、ある人は、小さい頃の「お母さんの味」を思い出し、またある人は、こつこつと努力や苦労を重ねることの大変さに思いを巡らせた。「愛国主義」との接点にたどり着いた人がいる一方、「文化輸出」の高みに上った人もいる。ひとつの番組が、あれよあれよという間に、話題を超越するほどの極めて大きな影響を社会に及ぼすようになった背景には、一体何があるのだろうか?