中国の直面する国際的な戦略環境と周辺の安全保障環境は厳しくなりつつあるが、注目すべき積極的な点もある。防備に一段と拍車をかけなければならない面と同時に、積極的に進取して大きな成果を上げることのできる面もある。中国の戦略的好期はまだ終っていない。中身に変化が生じただけだ。(文:袁鵬・中国現代国際関係研究院美国研究所所長。人民日報海外版コラム「望海楼」掲載)
国際環境全体を見ると、最も目立つ大事件として欧米債務危機と西アジア・北アジア情勢の変動がある。前者は今後3-5年間、欧米各国にとって苦境からの脱却、経済復興、戦略の縮小、体制変革が最重要かつやむを得ない選択になることを意味している。一方中国は経済モデル転換の重大な試練を抱えているものの、経済情勢全体はなお比較優位にある。後者は今後相当長期間、西アジア・北アフリカが大国の注目と駆け引きの重点地域であり続けることを意味する。これはまず、この地域で長年駆け引きを繰り広げている米国、欧州、ロシアの戦略の行方に衝撃的影響を与え、それゆえに中国の創造的介入に歴史的チャンスをもたらしもする。
上記の事態は自ずと波及効果を持ち、中国の発展に不可避のマイナスの衝撃をもたらず。だが明確にしておくべき基本的事実として、「震央」は中国ではなく他国にあり、中国に影響が及ぶのは今日ではなく明日なのだ。足並みの過度の乱れ、または潜在的リスクの過度の前倒しは正しい姿勢ではない。歴史が証明するように、中国の戦略的好期は往々にして国際情勢の変動をしっかりと捉えた結果であり、足元をしっかりと固め、情勢を見極め、適切な策を練れば、現在の大変動の中から新たなチャンスを創造することが依然として可能なのだ。
周辺環境を見てみよう。現在の周辺情勢に対して悲観的な見方が少なからずあるが、これは主に(1)米国の戦略的重心の東へのシフトは全面的に中国を封じ込めようとするものだ(2)関係国はすでに米国と臨時同盟を結び、海洋紛争で中国との徹底的な対立を準備している--との2つの認識に基づくものだ。こうした認識は決して間違いではないが、やや単純に過ぎるきらいがある。
まず米国の戦略のアジア太平洋回帰を見てみよう。中国要因はもちろんその重大な誘因だが、唯一の標的では断じてない。これは政治、経済、軍事、外交に及ぶ全局的で重大な戦略調整であり、東アジア統合のプロセス、国内経済の復興、ポスト対テロ時代の軍事配備の再構築、同盟関係の崩壊の防止なども重要な原因だ。1つ明らかな事実は、1990年代以降、日本、韓国、オーストラリア、フィリピン、タイといういずれの同盟国でも「脱米入亜」「米国と距離を置き中国に接近」という姿勢が生じていることだ。このためオバマ大統領の回帰戦略とは、摩擦を利用し、飴と鞭で同盟関係を再構築しようとするものなのだ。在沖縄米軍のグアム島移転、韓米軍合同作戦指揮権の2015年までの延長は、中国を公然と狙う一面と共に、同盟国を隠然とコントロールする魂胆もある。両者は共に米国の新アジア太平洋戦略に資するものだ。
こうした複雑な背景を持つ動きを対中戦略的包囲と単純に受け止めて過剰反応しては米国の思う壺だ。なぜなら中国を威嚇・牽制し、同盟関係を安定させるという目標を最も低いコストで同時に実現でき、一石二鳥だからだ。それと反対にこれを見抜き、自信に満ちて対応すれば、必然的に米国の戦略的収穫は大幅に減る。過去50年の歴史が証明しているように、米国と同盟国との間のコントロールと反コントロールという根本的な矛盾は調和のとりようがなく、韓国と日本で戦略面の自主独立への欲求が消えることもありえないし、同時に全てに対処はできないという米国の戦略の欠点は遅かれ早かれ是正されるからだ。周辺を見回すと、北では中ロ関係が、南東では大陸と台湾の両岸関係がいずれも史上最もよい時期にあり、北西では上海協力機構が外延を拡大し、中身を深化しており、北東では中日韓経済貿易協力の原動力が衰えず、巨大な潜在力を備えている。これらは米国が中国を封じ込める「天網」を築くことは難しいということを意味している。
南中国海問題を見てみよう。南中国海情勢の緊張と緊迫、ベトナムやフィリピンの度を越した再三の挑発、米国と各領有権主張国の相互支持によって、中国の海洋主権は重大な試練に直面している。だがもっと視野を広げてみれば、他に重視すべき重要な背景が3つある。第1にわが国は陸上国境紛争をほぼ解決し、南中国海問題に集中する前提条件を備えている。第2に台湾海峡情勢が基本的に安定しており、南中国海問題に対処する基盤を備えている。第3に海上能力を一歩一歩高めており、南中国海問題に集中する条件を備えている。
言い換えるなら、中国は南中国海に向き合う国家能力と民族意志を初めて真に備えるにいたったのだ。これは中国の実力、利益、戦略の発展の必然的結果であると同時に、中国の台頭の次の段階における必然的な要請と重要な使命でもある。これは、その全プロセスに伴うこととなる。三沙市の設置、海洋取締り能力の強化、国民全体の海洋権益意識の増強等々は、このプロセスがすでに始動したことを示している。中国はこれをしっかりと台頭の過程に位置づけて受け止め、決意と共に耐久力を備え、外界に左右されず自らのリズムを押えなければならない。
「両岸の猿声啼いて住まざるに、軽舟已に過ぐ万重の山」。激しい荒波を経験し、無数の変動を受けて立ってきた中国は、現在の国際情勢、周辺情勢の動乱の中で新たなチャンスと発展空間を創出することが絶対にできるとわれわれは信じている。
「人民網日本語版」2012年7月31日