G20議長国であるドイツのメルケル首相は、欧州でG7とNATOサミットを開催する地ならしをするためトランプ大統領との初会談に臨んだが、不協和音が漂った。主客双方がホワイトハウスの楕円形の部屋で記念撮影をする際に、トランプ大統領は意図してか隣のメルケル首相から目をそらした。メルケル首相が小声で握手を提案すると、トランプ大統領はそれを受け入れず、いいとも悪いともつかない表情をした。世界の政治の舞台で厚遇されているドイツの「鉄の女」は、きまり悪そうな顔になった。
米独首脳会談のきまりの悪い光景は、大西洋関係の現実を反映した。これは指導者の個性、国家的性質、時代的性質などの面に及ぶ。
まず、指導者の個性はかけ離れている。トランプ大統領とメルケル首相はいずれも個性的な指導者だが、真逆の方針を持つことが問題だ。トランプ氏は世界が混沌として秩序がなく、米国は世界の重責を担うのではなく、米国人の利益を断固として守るべきだと考えている。そこでトランプ氏は「米国ファースト」政策を推進し、多国間主義とグローバル化に消極的だ。メルケル首相は進歩的で、理性・平等・自由・多国間主義・開放・寛容などの現代的な欧州の価値観を持つ。これは戦後ドイツとEUが現在の地位を築いた礎であり、断固として守らなければならない。その結果、トランプ大統領はメキシコとの国境地帯に壁を築き、メルケル首相は国境の開放と難民受け入れの政策を主張している。国内外からの反対により政策を調整しているが、当初の方針を変えていない。
次に、国益と安全の関心事が、徐々に離れていっている。この食い違いは最も重要だ。米国の利益は内向き志向、アジア太平洋型になっている。米国の同盟体制と国際貿易に対しては「赤字カット」と「公平」を指針としており、安全観も世界から自国およびアジア太平洋安全体制の重視に移り変わっている。欧州の利益は依然として地域一体型の開放的な世界貿易システム、および多国間・多層的ガバナンスにある。国際安全ではロシアや中東など、周辺に注目している。
その結果、先ほど閉幕したG20財務相・中央銀行総裁会議では、保護主義に対抗するという表現が共同声明に盛り込まれなかった。米国とEUは公平な貿易、規則を設ける貿易で食い違っている。トランプ大統領はG20をそれほど重視しておらず、さらにNATO加盟国のみかじめ料(加盟国の軍事費はGDPの2%以上)についても、メルケル首相を非難した。メルケル首相は米国からの催促に不満を示し、自国の需要に基づき軍事費を増やすと表明。トランプ大統領は貿易面で、米国が世界貿易で「不公平な扱い」を受けているとした。メルケル首相は公平な貿易の重要性を認めたが、開放的な考えによりグローバル化を見据えるべきだと強調し、トランプ大統領の貿易保護主義を暗に批判した。移民規制を主張してきたトランプ氏は移民と難民問題について、移民は権利ではなく特権だと強調した。メルケル首相は、グローバル化は開放的で公平な手段により構築されなければならないと発言した。
それから、「西側の時代」が過ぎ去ろうとしている。冷戦終結後、欧州の政治家は「西側」をよく口にし、米国は「国際社会」であっさりと応じた。この差はオバマ時代に、欧州とアジアの差となった。米国の戦略的な立場は、環大西洋から環太平洋にシフトした。トランプ時代になると直接「米国ファースト」という旗印を掲げた。トランプ大統領は「西側」の求心力を損ねた。道義的にも、利益的にも、さらには感情的にも、いわゆる「西側」は過ぎ去ろうとしている。ポスト西側の到来は、環大西洋関係のさまざまな問題を説明している。
当然ながら、事の成り行きは常に、量の変化から質の変化の過程を踏まえる。環大西洋関係の問題は、欧米の「差」を浮き彫りにしただけだ。しかし事の成り行きはまだ量の変化の最中であり、「歩み寄り」の可能性も残されている。いかに質の変化を迎えるかについては、今後の経過を見守る必要がある。(筆者:王義桅 中国人民大学EU研究センター長)
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2017年3月20日