新型コロナウイルスの感染が世界で広がり、世界の政治・経済・社会環境に大きな影響を及ぼしている。各国の軍隊の展開と戦備にも厳しい課題を突きつけている。米軍は世界的に展開し、世界で攻防を兼ねているため、客観的に見て感染症の影響を最も受けやすい。4月8日現在、米国の国防システムの感染者は3000人を超え、うち6割が現役軍人となっている。
中でも米軍太平洋艦隊及びインド太平洋軍の状況が深刻だ。感染はすでに真珠湾、サンディエゴ、横須賀、キトサップ・バンゴー、横田、厚木、嘉手納などほぼすべての海外基地及び前線基地に広がっている。太平洋艦隊の空母「レーガン」「ルーズベルト」「ニミッツ」「カール・ヴィンソン」で感染者が出ており、「ルーズベルト」の感染者は400人以上。
世界最強かつ戦備水準が最高の軍事力ではあるが、米軍の感染対策はややお粗末だ。これには当然ながら、海外の人員が多く、展開範囲が広く、軍民関係が悪く、重視が不十分といった多くの原因がある。しかし根本的な問題は、米軍が絶対に遂行不可能なジレンマのある任務を抱えていることにある。米軍及び情報システムは実際に、感染症の重大性と深刻な危害を早くから認識し、頻繁にホワイトハウスと国防総省に警告を出していた。米軍も早めに感染対策を行っていた。
ところが大国の戦略的競争を背景とし、中国などの国との競争を強化することが米政府ではすでに「ポリコレ」になっており、絶えずこれに取り組まなければならない。感染流行後、米軍は感染対策を強化する一方で、中露との軍事競争を強化するというジレンマに陥った。アジアで感染状況が非常に深刻になった2−3月も、米軍は南中国海などの海域で頻繁かつ活発に活動し、一つのピークを作った。「ルーズベルト」空母打撃群、「アメリカ」両用即応グループ、第7艦隊の旗艦「ブルー・リッジ」などの太平洋艦隊の主力艦が、南中国海及び周辺海域で巡航・演習・威嚇などの行動を行った。「ルーズベルト」空母打撃群は3月上旬、感染症の影響を顧みず、ベトナムのダナン港を訪問した。「モントゴメリー」沿海域戦闘艦は1月25日に南沙で、「マッキャンベル」ミサイル駆逐艦は3月10日に西沙で「航行の自由作戦」を行った。米海軍の2隻の測量船が南北に分かれ、2月中旬から3月中旬にかけて西沙諸島及びその周辺海域で1カ月に及ぶ高強度水中偵察を行った。
3月末になり、米国本土と米軍内で大流行が発生しても、国防総省とインド太平洋軍の高官は「二兎」を追った。感染対策に取り組む一方で、戦備と抑止力を維持しようとした。感染対策はすでに米軍の現在の主要任務になっており、国防総省も「海外移動停止命令」を出した。しかし米軍は依然として西太平洋における軍事的存在感と抑止力を極力維持しようと試み、弱みを見せようとしていない。
米軍は感染情報の管理を強化し、統一的な対外発表を求めている。感染者の詳細な情報の発表を避け、弱みやつけ入る隙を見せようとしていない。米軍はその一方で敏感な地域における軍事活動及びパワーの存在を極力維持している。米軍艦は現在、東中国海、南中国海などで活動を控えているが、高強度の空中偵察を維持している。
「ルーズベルト」の事件は、この矛盾を集中的に露呈した。米政府高官は毎日「大国の競争」を叫んでいるが、現場の将兵はすでに苦しい状況にあることを理解している。感染症はこの矛盾をさらに大きくした。中米の軍事力の差が相対的に縮小し、西太平洋のパワーバランスが均衡化に向かうなか、米国が同地域の海上における覇権的地位を維持し、さらには強化することが困難になっている。
1784年に米国の「Empress of China号」が訪中してから、中米双方の間に軍事衝突が発生したことはあるが、中国が米国の軍事的脅威であったことはなく、自ら米国を威嚇したこともない。中国の国防現代化は近年目覚ましい成果を手にし、軍事力が大幅に強化された。しかし中国は防御中心の国防戦略を変えたことがなく、これまでの歴史の流れを乗り越える努力を放棄してもいない。
中国の力が成長した後、その活動範囲は自ずと広がり、強度も上がる。固有の海洋権益をより揺るぎない姿勢で守り、より開放的かつ包容な国際海洋安全秩序を求める。権力の移動を考えると、米国がある程度警戒し反応することは理解できる。しかし現在の米国は、いわゆる「中国の脅威」を過度に懸念し、さらには偏執的と言える程度になっている。世界の感染対策協力の重要な時期においても、偏見を捨てようとしない。
毎日「中国の脅威」及び中国との衝突に対応する準備をしているが、米軍が対応しなければならない主な脅威は中国ではなく、現実におけるテロリズム、新型コロナウイルス、今後のその他の問題の方だ。(筆者・胡波 北京大学海洋戦略研究センター主任、南中国海戦略態勢感知計画調整人)
「中国網日本語版(チャイナネット)」2020年4月11日