平和的にナンバーワンになることが中国にとって最重要
先週発表された「政府活動報告」に記された中国経済の政策について、日本メディアは詳しく分析してきた。「第14次五カ年計画」綱要草案では国内総生産(GDP)の具体的な数値目標を盛り込んでおらず、「政府活動報告」では2021年の財政赤字を対GDP比で3.2%前後とし、失業率を5.5%前後に抑え込むなどの内容を取り上げ、その背後には中国経済がまだコロナ前の水準に回復していない現状があると指摘している。長年にわたって中国経済を研究している日本の専門家は今回の「政府活動報告」をどう見るのか。東京大学の丸川知雄教授に聞いた。
――これまでの五カ年計画とは異なり、「第14次五カ年計画」綱要草案では国内総生産(GDP)の具体的目標が示されておらず、「経済の動きを合理的な範囲内に保ち、年度ごとに実際状況に応じて経済成長の目標をうち出す」としたことは五カ年計画の制定史上初めてのことですが、これについてどうお考えですか。
丸川知雄:これは今回の「政府活動報告」の中で最大の注目点だと思う。五カ年計画綱要草案では5年後の成長率の具体的な目標を作らないことで、五カ年計画の根本的な性格が変わったと見ている。今までの五カ年計画は全てキャッチアップの計画で、先進国を目標にしてきた。しかし、今回はキャッチアップの目標を示さず、国内の貧困問題や経済的格差などの問題にしっかり取り組んでいく姿勢を見せた。このことは評価している。
IMF(国際通貨基金)などの機関は、中国は2030年までに米国を抜き世界一の経済大国になると予測している。ナンバーワンになる過程で、先進国や周辺国が中国を「脅威」と感じるのは仕方がないことだと思う。特に新型コロナウイルスの流行以降、中国が感染を克服したり他の国を助けたりすればするほど、「ワクチン外交」「マスク外交」などと悪いほうにとらえられている。中国にとって現在最も重要なのは「脅威論」を高めずに、いかに平和的にナンバーワンになるかということだ。したがって、今回具体的目標を定めなかったのは、脅威だと思われないようにしようという意図だと私は理解している。
――「政府活動報告」では、今年のGDP成長率を6%以上としました。国際経済機関などは一般的に2021年中国経済の成長率を8%以上と高く予測した。GDP成長率6%以上の目標についてどう分析しますか。
丸川:私は控えめな目標だと感じた。中国のGDPは新型コロナウイルスの影響で、20年の第1四半期ではマイナス6.8%に落ちた。そのあと回復し、昨年第4四半期はプラス6.5%となり、中国経済は完全に元のペースに回復したと考えられる。私の試算だと21年全体でプラス9%ほどの成長が予想できる。ちなみにIMFは8.1%の成長と予測している。そのようなことを考えると、6%程度の目標は比較的余裕で達成できるし、もっと高くなるだろうと予測している。
国内需要が安定的に戻ってきていることはプラスの要素だ。例えば今年1月の乗用車販売台数は前年同月比でプラス26.8%だった。1年を通せば4~5%のプラス成長になると予測されている。乗用車販売台数が5%伸びれば、経済全体が5%伸びるというのはほぼ間違いないだろう。
「政府活動報告」では、今年の財政赤字率を3.2%前後とした。20年は3.8%だったと思う。全力で経済の回復を頑張るのではなく、政府は少し慎重に財政政策を行っていくと読める。内需も順調に回復していると見ているのだろう。
一方、不安要素もある。米国などが大規模な刺激策を出して世界経済が過熱になる可能性がある。中国政府としては、過熱による影響を警戒しつつ、失業率が悪化しないよう適度な財政支出を行っていくだろう。具体的には、地方に財源を渡して生活に困難がある人々への生活保護を行う、若干の公共事業を行う、ということだと活動報告からは読める。
――「政府活動報告」では中国政府は再び環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)への加入を前向きに検討すると表明しました。これにはどのようなプラスの意義があると思いますか?
丸川:私は非常に前向きに、かつ積極的に受け止めたいと思っている。日本経済新聞やNHKなどは、「一帯一路」について「広域経済圏構想」などと表現している。実際に「一帯一路」の範囲はアフリカにも広がり、先進国以外の世界をほとんど包括しているといった状態になっているが、中国は「ブロック(経済圏)」を作ろうとはしていない。今回の「政府活動報告」から読み取れるのも、むしろ既存の枠組みに入っていきたいという意思だ。地域的な包括的経済連携(RCEP)への積極的な参加、日中韓自由貿易協定(FTA)交渉の促進、米中経済貿易関係の推進などといったことが言及されている。国際経済の中のさまざまなグループに入りたい、米国との関係を改善したいといったことを書いているのは、とても有意義なことだと思う。
CPTPPの中心国の一つになっている日本は、中国の加入を歓迎する態度を示しても良いのではないか。英国が加入を希望した時と比較すれば、中国に対する日本の態度は大きく異なる。しかし、例えばサプライチェーンを考えた場合、地理的にも、中国が加入するメリットがはるかに大きい。中国の加入の意思を日本がきちんと受け止め、すぐにでも交渉を始めるべきではないかと思う。
人民中国インターネット版 2021年3月11日