ハリス米副大統領は23-26日にかけて、副大統領就任後に初めてシンガポールとベトナムを訪問し、米国のいわゆるインド太平洋戦略を推し進めた。ところが新型コロナウイルスの感染拡大が続き、米国の「カブール陥落」の衝撃を背景とし、ハリス氏は東南アジアの同盟国の米国に対する信頼を強めようとする一方で、依然として頑迷にも関連諸国と中国の仲違いを唆そうとした。この歴訪はまったく時宜にかなっていないと言える。
まず、ハリス氏の今回の歴訪は「遅刻」だった。それに先駆け米メディアは、バイデン政権はインド太平洋の重視を常々口にしているが、感染拡大、景気低迷、社会の対立の激化といった国内問題に足を引っ張られ、外交問題の成果が上がっていなかったと伝えた。外交が得意と自負するバイデン大統領の就任から7カ月以上に渡り、100人以上の在外大使が長期に渡り空席だった。ホワイトハウスは最近になりようやく34人の大使の候補者を発表したが、上院の承認を待たなければならない。外交チームの再構築をめぐるバイデン政権の行動が非常に緩慢であることが分かる。同時に今回のアジア歴訪はハリス氏が副大統領に就任してから2回目の外遊で、最初の外遊先はグアテマラとメキシコだった。その目的は、バイデン政権発足当初に直面した、大量の違法移民が南部に殺到するという難題の解消だった。ハリス氏は近年では初めて東南アジア諸国を歴訪した米副大統領だが、就任から半年後になっての訪問は米政府の同地域に対する重視を示せなかった。
次に、ハリス氏は「ミッション・インポッシブル」に挑もうとした。米メディアは、外交問題をめぐり成果の少ない副大統領であるハリス氏の東南アジア歴訪について、地域の同盟国に対する米国の約束を強調し、米国の信頼できる同盟国としてのイメージを固める狙いがあるが、米国の国際的な信頼に対する「カブール陥落」の衝撃がなおも続いていると伝えた。同盟軍のアフガニスタンからの秩序なき撤退により、ハリス氏は地域諸国の米国への疑問視に直面せざるを得なかった。それに加え、米軍によるカブールからの米国人及び一部アフガン人の退避行動が続き、米軍撤退の時期の延長をめぐる米国とEU諸国の食い違いが残されており、アフガン問題はハリス氏の頭上の「払拭できない暗雲」になった。また、ハリス氏は以前アジアを歴訪したオースティン米国防長官と同じくシンガポールとベトナムを選んだが、米国の伝統的な同盟国であるタイとインドネシアについては無視を決め込んだ。米国の同盟国への約束はどこにいったのかと疑問を禁じえない。シンガポールは米国の東南アジアにおける最大の安全パートナーの一つであるが、米国と条約を結んだ同盟国でななく、ベトナムに至っては米国の「準同盟国」でさえない。
さらに、シンガポールとベトナムは米国側の抱き込みに対して慎重かつ自制的な姿勢を示した。シンガポール華字紙「聯合早報」によると、シンガポールのビビアン外相はハリス氏の到着前、シンガポールは中米両国の重要な協力パートナーであり続けるため取り組むと表明した。「シンガポールは役立つが、利用されたくはない。我々はどちらか一方の消極的な活動の推進に利用される藁人形にはならない」ハリス氏のベトナム到着前、ベトナムのファム・ミン・チン首相は駐ベトナム中国大使と会談した際に、「ベトナムは終始、中国との伝統的な善隣友好、包括的戦略的パートナーシップを重視しており、対中関係発展はベトナムの対外政策の最優先事項だ。ベトナムはその他の国に対抗するために、いかなる国とも同盟を結ばない」と表明した。米政府の思惑が、アジア太平洋諸国の政府の思惑と常に一致するわけではないことが分かる。地域諸国は米国と中国の関係のバランスを取るため、常に自国の利益により合致した方法を模索できる。
最後に、米国側は対中政策の「言行不一致」を続けた。バイデン政権による最近の中国に対する姿勢には、相互矛盾する発言が満ちているが、ハリス氏の今回の歴訪はこれを再び裏付けた。ブリンケン米国務長官は5月上旬のインタビューで、米国は中国へのけん制もしくは圧力を決して試みないと表明した。ハリス氏も今月24日のシンガポールでのスピーチで、米国の東南アジア及び「インド太平洋」における参画は特定の国を念頭に置くものではなく、ある国に対して国家間での選択を強いるものでもないと述べた。ところがハリス氏はその後、中国が「引き続き南中国海地域で他国を脅迫している」と非難した。ハリス氏はベトナムでさらに、国際社会は「南中国海の広い海域の主権を主張する中国に対して圧力を強めるべき」と唆した。米国は中国のけん制を試みず、地域諸国に立場を明らかにするよう迫ることはないと称しながら、その一方では徒党を組み共同で中国に圧力をかけようとしている。バイデン政権の当局者がすでに、その自己矛盾する対中「競争・協力・対抗」政策枠組みに戸惑っていることは明らかだ。またロイター通信の25日の報道によると、米国の気候変動問題を担当するケリー特使は9月に再び訪中し、気候変動への対応をめぐり中国との協力を模索するという。ところが中米関係が引き続き膠着状態に陥るなか、ケリー氏が中国再訪で中国に対して具体的かつ新たな排出削減の約束を引き出せるかは楽観できないと分析する声もある。
米国の対中政策が終始言行不一致で、米国の利益にすべてが合致しなければならないという前提を掲げるならば、中米の協力が順調に展開されることはなく、中米関係の健全かつ安定的な発展には壁が存在する。(筆者・張志新 中国現代国際関係研究院米国研究所副研究員、博士)
「中国網日本語版(チャイナネット)」2021年8月30日