文=李濤 四川大学南アジア研究所教授
米政府はこのほど「米国のインド太平洋戦略」報告書を発表した。報告書はたびたびインドについて取り上げ、「米国はインドと共に取り組み、かつ地域グループを通じ南アジアの安定を促進するための、一種の戦略的パートナーシップを持続的に構築する」とした。ところがこの報告書はインドで大反響を呼ばず、喝采を浴びていない。米印はインド太平洋戦略をめぐり根深い差を残している。
(一)両国のインド太平洋戦略の目標が完全に一致せず、そればかりか一部では衝突も存在する。米国は中国とインドというアジア2大国がけん制しあうことで、そこから漁夫の利を得ようとしている。ところがインドは、中印日などのアジア諸国の共同発展によって初めて「アジアの世紀」を迎えられることを知っている。そのためインドはインド太平洋戦略の開放性と経済協力性を堅持しており、過去には中露をインド太平洋戦略に収めようと試みたこともある。また、「クアッド」(米日豪印戦略対話)とインド太平洋の区別を堅持している。そのためインドと米国のインド太平洋戦略の注目の重点には、長期的に食い違いが存在している。
(二)インドと米国の中国に対する構造的な矛盾が非対称的で、そのインド太平洋行動に差が生じている。中国のインド太平洋地域における存在感と影響力を共にけん制することは米印に共通する戦略的需要であるが、双方の国益に基づく中国への認識、対中政策、中国への需要などに根本的な食い違いがある。中国けん制は確かに米印の戦略レベルの歩み寄りを促す主な外的要因であるが、中米と中印の間の構造的な矛盾は明らかに非対称的だ。前者には国際的・全面的な構造があるが、後者には地域及び局地的な性質しかない。これに加え、インドの対外政策の戦略的な自主性が加わり、インドの米日豪とのインド太平洋の統一的な行動において数多くの相違点が生じている。
(三)インドとロシアの友好関係、特に双方の防衛貿易が米印関係の長期的な不和の種になっている。印露関係には良好な基礎があり、さらに日増しに緊密になるロシアとパキスタンの関係によりインドの戦略的な空間が狭まるとの懸念があり、インドはインド太平洋の安全分野の協力に非常に慎重だ。
(四)アジア諸国としての立場、核心的利益への関心により、インドの地域諸国への態度は米国と大きく異なる。まず、アフガニスタン問題が、同盟国に対して無責任というインドの米国への印象を深め、かつ癒しがたい傷跡を残した。次に、米国はインドがイランから石油を輸入していることに大きな不満を持っている。それからミャンマー問題についても、インドの態度はクアッドの米日豪と異なる。インドはミャンマー軍への「制裁」に反対している。朝鮮問題についてもインドはその他の3カ国と異なる。平壌に大使館を置いている数少ない国の一つであるインドは、強硬な発言を避け沈黙を保っている。インドはASEANについて、インド太平洋戦略の経済成長により、貧困削減及び人々の生活水準の向上に向け協力の可能性を生むことを強調している。
(五)印米のインド太平洋の経済的利益や発展方法などをめぐる差により、インド太平洋経済協力の遅れが生じている。経済・貿易問題について、米国は「米国ファースト」の原則を貫いているが、インドは多国間主義を支持している。双方の貿易自由化や移民などの問題をめぐる立場が異なり、貿易摩擦が続いている。米国は中国の工場をインドに移転しているが、中印の貿易額が激増し、さらには米印を超えている。2021年には前年比43.3%増で過去最大の1250億ドルに達した。
(六)印米は気候変動やサイバーセキュリティなどその他の問題でも食い違っている。昨年のCOP26において、インドのモディ首相は急に、2070年までにインドで炭素のゼロエミッションを達成するという目標を掲げた。しかし世界2位の石炭生産・消費開発途上国にとってこれは極めて困難だ。印米は気候変動の責任、温室効果ガス削減などの面でも食い違いを残している。サイバーセキュリティ発展の目標、水準、発展空間、協力メカニズムの調整などの面にも大きな難点が残っている。
「中国網日本語版(チャイナネット)」2022年2月22日