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人民元上昇のペースが速すぎる? |
発信時間: 2008-01-21 | チャイナネット |
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上昇加速の原因
人民元の急速な上昇について、中国人民銀行の周小川行長はスイス・バーゼルで開かれた国際決済銀行(BIS)の会議に出席した際、「世界的な原油価格の高騰、国内のインフレと国内の巨額の貿易黒字が最近の人民元上昇を押し上げた部分的な要素だ」との考えを示した。 さらに周行長は「内外の為替市場の需給状況も最近の人民元上昇の原因であり、一部の国内金融機関は外貨を大量に投げ売りして、人民元の上昇を促している」とも指摘した。 だが多くの人は、人民元上昇が加速している原因は、政府がそうすることでインフレ圧力を抑制したいとしているからだ、と考える傾向にある。 07年にインフレ圧力は高まった。その年に預金準備率を10回引き上げ、預金・貸出金利を6回引き上げ、手形と特別国債を機関向けに大量発行し、全額をヘッジファンドの外貨流入に充てるなどの一括した措置を講じても、金融引締政策で収めた成果は微々たるものであり、インフレ傾向の抑制は現在まで続いても軽減されておらず、そこで政府は、為替レートという手段を借りてインフレの苦境を脱したいと期待しているのではないか、ということだ。 人民銀行は昨年第3四半期の通貨政策報告で、人民元上昇は国内のインフレ抑制にプラスだとの考えを示している。上昇が加速すれば、輸入コストは低減し、国際的な穀物、石油、原材料などの価格高騰が国内にもたらす輸入によるインフレ圧力を軽減することができるからだ。 国務院発展研究センター金融研究所の巴曙松研究員は、為替レートによるインフレ苦境からの脱却を支持している一人だ。巴氏は「人民元の上昇はインフレの抑制にプラスとなる。仮に10%上昇した場合、輸入する石油、大豆や豚肉などの価格は一気に10%前後低下する」と強調。 中国国際金融公司の報告も、その他の条件が変わらなければ、人民元の名目有効レートが10%上昇すれば、CPIの上昇幅は短期的に0.8ポイント、長期的には3.2ポイント低下するとしている。 人民元上昇の加速を望むいま一つの理由は、輸出型企業はすでに人民元上昇でもたらされた利益率圧縮のなかで生き残ってきたからだ。この点は非常に重要である。国家情報センターの高輝清副研究員は「中国の経済力はより強大となり、リスク抑制能力もより強まり、しかも政府もより自信を持っている」と指摘する。 人民元上昇加速の影響を受けたからか、多くの研究機関が上昇の予想値を上方修正している。JPモーガンは報告で、今年の対ドルレートはより大きく変動するなかで上昇幅は10%になる可能性が大きい、としている。 スタンダードチャータード銀行は、今年の対ドルレート上昇幅を9%とし、第2四半期末には1ドル6.94元まで上昇すると予測。 招商銀行本店資金取引部は、第3四半期に7%を突破、年末に6.80元になると予想している。 モルガン・スタンレーのグローバル研究部門の予測は、年末に6.95元に達するというものだ。 経済への影響 人民元の上昇は「両刃の剣」であり、一長一短ある。 専門家は「上昇が加速されれば、さらにホットマネーの流入を引き起こすだろう」と分析する。 人民銀行のマネーロンダリング防止監視分析センターによれば、07年上半期だけで、流入したホットマネーは1219億ドルの巨額にのぼる。ホットマネーが人民元だけが上昇傾向にあると見定めた場合には、その勢いはますます激しさを増し、インフレと資産バブル崩壊のリスクは一層増大することになる。 復旦大学主催のシンポジウム「中国経済の国際競争力問題」で、同大の華民教授は「現在、人民元は急速に上昇しており、これによって外貨準備は損失を被り、外貨の流量は減少するだろう。これは、短期的な上昇が将来の人民元安をもたらすことを意味している。仮に、ドルなど主要通貨に対して10%上昇した場合、わが国の外貨準備は10%縮減することになる」と指摘。 しかも、中国では低コスト改革はすでに終わり、就業と低所得者層の収入増が最大の民生問題となっている。人民元上昇の加速で最大の影響を受けるのは輸出型企業、とくに労働集約型の企業であり、人民元の突然的な上昇加速で製品の競争力が低下しコストが大幅に増加すれば、企業はそれに伴うより大きなダメージに対応することはできない。北京市輸出入企業協会の李明氏は「緩やかな上昇であれば、企業は適時に消化できるだろうが、突然の上昇による製品の競争力低下とコスト上昇は企業にとって致命傷となる」と強調する。 また、人民元レートの上昇加速は外国資本の投資意欲、外国企業の直接投資にも影響を及ぼすことになる。国内観光業の発展にもマイナスとなる。財政赤字も増加し、同時に通貨政策の安定にも影響する。 米国は人民元の上昇に期待を示しているが、こうした中国の実情にそぐわない要求は米国にも損失をもたらす可能性がある。中国経済が影響を受ければ、最も直接的に累が及ぶのは米国だからだ。 短期内の過度の上昇は禁物 人民元は資本口座では自由に兌換することはできない、つまり、為替レート決定メカニズムがまだ市場化されていないため、中国が為替レート改革を実施して以来、人民元の上昇がどれほどホットな話題になってきたことか。 だが、中国が実施している人民元レート改革の目的は「上昇」ではなく、市場の状況に即してレートを定めるという新しい「メカニズム」を確立することであり、「こうしたメカニズムがまだ確立され、完備されていない状況では、急速な上昇は禁物だ」。中央財経大学中国銀行業研究センターの郭田勇主任はこう強調する。 さらに郭主任は「現在の経済情勢では、人民元の上昇は、貿易黒字が過大な輸出入構造を調整し、流動性の形成メカニズムをある程度抑制し、インフレを抑制する上でその役割を果たすことはできる。だが、内需が十分でない現状では、人民元上昇に伴う輸出の減少による部分を補うことはできず、経済成長を失速させる可能性もあり、インフレがデフレとなって、国民経済の健全な発展に影響を及ぼすことにもなる」と指摘。 また、郭主任は「人民元の上昇は主動性、漸進性、制御可能性の原則に基づくべきである。なかでも漸進性が極めて重要だ。漸進性の原則にもとれば、一次的な大幅上昇によって、経済調整が不能となり、しかも通貨調整の主動権が失われるからだ。金融引締政策を効果的に実施するには、やはり人民元レートを弾力的に絶えず拡大すると同時に、金利や預金準備率の引き上げといった政策手段の役割を高めることが必要だ」との考えを示した。 「北京週報日本語版」より2008年1月21日
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