米国のサブプライムローン問題、原油・食糧価格の上昇など難題を抱え、世界経済が混沌としています。10年前のアジア通貨危機以上の激震といってよいでしょう。
7年前の2001年、中国は念願だった世界貿易機関(WTO)に加盟。以後、中国経済の国際化が加速するわけですが、今年7月、「WTOドーハ・ラウンド」交渉が決裂してしまいました。WTOは多国間での貿易ルールの構築、市場開放などを交渉する場です。その交渉決裂で世界経済の先行きはさらに不確実になりましたが、世界第3位の貿易大国となった中国にとっても、影響は少なくないといえます。
WTOドーハ・ラウンドに中国代表団の団長として参加した陳徳銘商務部長(大臣)は、交渉決裂を「悲壮的失敗」と表現、「当事国には深刻かつ複雑な要因があったが、あと一歩のところで決裂したことは極めて遺憾」(注1)と語っています。中国は、今回の交渉で調停役を買って出たほか、数々の意見を具申するなど、交渉妥結に向け大いに貢献したといわれます(注2)。
包括的な地域経済の連携へ
今後、世界貿易の新秩序の構築は、多国間交渉の場としてのWTOから二国間、国家・地域間、地域間など双務間のFTA(自由貿易協定)に比重が移ってくると見られます。
中国はこのFTA締結においても積極的な姿勢にあります(2007年時点で、発効または交渉中、交渉開始で合意するか共同研究中のFTAは16国・地域)。例えば、世界の成長センターとされる東アジアでは、中国は東南アジア諸国連合(ASEAN)とのFTAを軸に、域内各国・地域とのFTA締結に意欲的に取り組んでいます。最近の事例では、今年9月、シンガポールとのFTAが2年間の交渉を経て終結、10月には調印の見込みです。
東アジアには、EU(欧州連合)やNAFTA(北米自由貿易協定)といった包括的な地域経済連携(東アジア共同体)は構築されていません(注3)。EUは2007年末時点で27カ国が参加し、共通の通商政策や単一の中央銀行、共通通貨のユーロを持っています。またNAFTAは米国、カナダ、メキシコが参加し、将来的には中米5カ国、中南米諸国を加えた25カ国によるFTAA(全米自由貿易協定)に発展する予定です。ASEAN+3(ASEAN加盟10カ国+中国、日本、韓国)の域内貿易比率(2007年)は38.8%で、これに豪州、ニュージーランド、インドを加えたASEAN+6では43.1%となり、NAFTAの41.0%を上回ります。
近い将来、域内のFTAが発展し、ASEAN共同体、東アジア共同体などの包括的な地域経済の連携が実現すれば、世界経済の安定的発展に大きく貢献することになります。
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