今年9月、中国では宇宙ステーション建設を目指す「神舟7号」が打ち上げられ、初の宇宙遊泳に成功しました。中国にはこのほか、月面着陸を目的とする「嫦娥」計画もあるなど、宇宙事業に国威をかけて取り組んでいます。今日、巨費を投じて宇宙事業を単独で積極的に推進できる国は中国をおいてほかにないでしょう。
世界の注目を集めた北京五輪開催から一カ月後、リーマン・ブラザーズが破綻するなど、米国発サブプライム・ローン問題の激震が世界経済に波及しつつあります。中国の壮大な宇宙事業の快挙と世界経済の未曾有の危機といった世相に、世界経済における中米両国のプレゼンスの変化が垣間見えるようです。
プレゼンスを高める中国
イソップ物語に「ウサギとカメ」という話があります。両者が「駆けくらべ」をする話ですが、宇宙事業では、ウサギは今から40年ほど前に「アポロ11号」による月面着陸に成功し、スペースシャトルなどで数々の宇宙実験を行っている米国、それに対し中国はさしずめカメでしょう。
宇宙事業において、米国はかつての勢いはないものの、中国の先を走っていることに変わりはありません。ただ、宇宙事業の発展を支える経済力となると、中国と米国との差はかなり縮まってきています。
現在、世界がもっとも関心をもっているのは、1929年の世界恐慌以来の危機といわれるサブプライム・ローン問題の行方ではないでしょうか。世界経済の発展に影響力のある国・地域としては、米国、中国、EU、日本、産油国、新興国などが指摘できますが、このうち、この問題に対しもっとも多くの選択肢をもっているのは中国でしょう(注1)。
中国は、10年前のアジア通貨危機で、世界から確実視されていた人民元切り下げを断固として行わず、その後のアジア経済の安定に貢献した実績があります。当時の金融危機はアジアに限定されていましたが、今回は世界的規模です。中国の経済力は当時と比較にならないほど大きくなっています。中国がどう対応し、どんなメッセージを発信しようとしているのか、今、世界の関心事の一つになっているといってよいでしょう。
天津・ダボス会議での約束
米国の金融安定化法案の採決の行方に世界が固唾を呑んでいたころ、天津では第二回天津夏季ダボス会議(注2)が開幕しました。その折、クラウス・スクワブ議長の「中国は当面の世界経済危機にどう対応するか」との質問に対し、温家宝総理は、「各国との協力を強化し、(中略)中国が力強くかつ安定的高成長を維持すること、これこそが世界経済に対する最大の貢献である」と答えています。
9月に天津で開かれた第2回夏季ダボス会談で演説する温家宝総理(新華社) |
会議参加者の中には、サブプライム・ローン問題を「危機即ちチャンス」とみて、海外展開や国際ブランド、国際金融関連人材などの確保が容易になるとの企業家もあったようです。また、この機会にウォール街に投資しようなどといった「救美英雄」(米国の救世主)を気取るうわさ(注3)も少なくなかったようですが、中国人民銀行は、これをきっぱり否定しました。
サブプライム・ローン問題では、中国経済への影響、金融機関の損失も少なくなく、この点で、温家宝総理は今の経済成長維持を優先し、そのために経済矛盾を是正していくことに全力を上げると、天津で約束したと言えるでしょう(注4)。