こうした3つの見方を分析すると、それぞれがよって立つ観点にはそれぞれ一定の道理がある。だが3つの見方を一緒にして系統的に考えてみようとすれば、相互の間には矛盾があり、合成するとおかしなことになる。合成するとおかしいということは、実のところ財政のトライアングルに陥るということにほかならない。
財政のトライアングルとは、財政収入、財政支出、財政赤字の3者同士の関係が幾何学的な模様を描くことをいう。作図の方法を用いれば、3者の関係は三角形になり、それぞれが1つの辺を構成する。こうした財政のトライアングルは単純なものだが、実はバミューダの魔のトライアングルと同じようにわかりにくく、気が付けばその中に飲み込まれてしまうものだ。欧州債務危機はまさに財政のトライアングルに飲み込まれた典型例だ。
財政のトライアングルが発生する原因は、減税と支出増加と赤字のコントロールを同時に行えないことにあり、いかなる財政政策をとってもこの中に飲み込まれる可能性がある。現実的な選択としては、ひとまず2辺に注目することだ。たとえば減税と支出増加に注目すれば、赤字と債務のコントロールは難しくなる。減税と赤字・債務のコントロールに注目すれば、財政支出を増加させることはできなくなる。支出を増やし、赤字・債務をコントロールすれば、減税は無理になる。財政のトライアングルではどの財政政策を採るにしても2辺しか選択することはできず、残り1辺は放棄することになる。どのように選択し、組み合わせるとしても、放棄された1辺が財政リスクの裂け目になる。こうした点からいって、財政のトライアングルはリスクのトライアングルでもある。全体を統一的にみなければ、国全体の財政がトライアングルに飲み込まれ、抜け出ることができなくなる。