TPP農業交渉には、動植物の検疫の統一規範や生態環境の保護、知的財産権の保護、近代ビジネスモデル、透明性、腐敗防止と監督管理、労働者の保障、企業の公平競争などの内容も含まれる。つまりTPPは、従来の単一的な狭義の貿易協定から、近代的で広義の総合的な貿易協定へと拡大し、多くの非経済要素を含むものとなっている。TPPメンバーは、貿易メカニズムによる制約を受けるだけでなく、法律法規や社会団体、生態環境、ビジネスモデル、公衆の評価などの制約も受けることとなる。このことは、米国が「自由貿易」の新たなモデルを全面的かつ多層的に展開していることを示している。
TPPは中国の農業に対して、次の2つの面で潜在的な衝撃となりうる。第一に、米国が現在、中国のTPP交渉参加を阻んでいるのは、TPP規則の制定に中国が参加することを拒み、中国の発揮する役割を制限するためである。だがTPP交渉が一旦成功すれば、米国はTPPの名で中国に参加を迫り、中国がさらに市場を開放することを求めると推測される。米国は中国という巨大な市場を無視できない。第二に、世界の貿易ルールの革新者であり統率者である米国は、TPPの新規則によって中国農業の弱点を突くことを目論んでいると考えられる。例えば中国の食糧安全は現在、輸入関税を土台としており、食糧の関税引き下げや関税割当数量の拡大が起これば、食糧安全に対する衝撃が顕在化することとなる。未来の中国の食糧安全は、食糧の生産量だけでなく、食糧の国際競争力にもかかってくるものと考えられる。世界経済が一体化し、農産品の関税引き下げが進む中、高い関税による保護によって食糧安全を長期にわたって維持することはできない。