日中経済協会
調査部長 高見澤学
この11月10日から11日にかけて、ベトナムのダナンでアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議が開催される。首脳会議には、中国からは習近平国家主席、日本から安倍晋三首相のほか、米国のトランプ大統領も参加することになっている。
今年のAPECのテーマは「新たなダイナミズムの創出と共通の未来の促進(Creating New Dynamism , Fostering a Shared Future)」で、「持続可能で、革新的かつ包摂的な成長の促進」「地域経済統合の深化」、、「デジタル時代における零細・中小企業の競争力・イノベーションの強化」及び「食糧安全保障と持続可能な農業の促進」の4つの目標が掲げられている。
こうしたテーマと目標が掲げられた背景には、英国のEU離脱や米国トランプ政権による一部の保護貿易的政策及び措置の実施など、昨年来、アンチグローバリズムの動きが顕在化してくること、また、モバイル端末の進化や情報通信インフラ技術の革新による「第4次産業革命」の到来という社会の大変革が生じている現実があるからだろう。
従来の欧米型思考の経済理論やシステムにより生まれた今の経済発展モデルやグローバル化の流れの中で、確かに一部の国では経済が大きく発展してきたことは否めない。しかし、その過程である矛盾や問題点が生じてきたことも忘れてはならない。こうした矛盾に対する不満が、保護貿易への志向という形になって現れてきたのではないだろうか。
しかし、私自身、従来の経済発展モデルやグローバル化によって生じた矛盾は、保護貿易という内向き的な志向では決して解決することはできないと思っている。むしろ、グローバル化の波に乗り遅れてきた発展途上国の立場に立って、前向きかつ開かれた経済を進めつつ、生じている矛盾の原因を取り除いていくことによって、根本的な解決の道が拓かれるのではないかと思っている。
APECには、アジア太平洋地域のすべての先進国と数多くの発展途上国及び地域がメンバーとして参加している。それぞれの国と地域では、これまでのさまざまな経験が蓄積され、いろいろなパターンの経済理論が構築されている。こうした経験と理論を互いに持ち寄り、従来の矛盾の解決を図るとともに、持続可能な安定成長に向けた新たな経済システムを構築する必要があるだろう。
今年10月に北京で開催された中国共産党第19回全国代表大会での議論からも明らかになったように、中国がこれまでの経済発展の実績を踏まえ、自らの経済の舵取りに自信を強めている。先ずは、基本的な国の経済基盤を固めることに重点を置く政策を実施し、一定の体力(経済力)を身に着けた段階で、成長の過程で生じた矛盾を一つ一つ解決していくという手法である。それには先ず、国家主導による産業振興が重要な役割を果たす。そして徐々に市場原理に基づく経済システムの導入を進めていくようにしなければならない。
中国は、過去の先進国の経済発展モデルを参考に、自国の実情に合わせて独自の経済発展モデルを創り上げてきた。このモデルは、まさに発展途上国の立場に立ったものではないだろうか。中国が進める「一帯一路」構想は、その他の発展途上国にとって中国が構築した経済発展の手法を学べる絶好の機会となるはずだ。もちろん、その経済発展モデルは依然として成長過程であることも忘れてはならない。世界全体の経済規模の約6割を占めるアジア太平洋地域は、今後の世界経済を支える最も重要な地域として、その役割を果たしていくことが期待されている。