周牧之:「田舎は神が作り、都市は人間が作った」と言う人がいる。これには一理あると私は思うが、まったくその通りだとは思わない。
日本では村落、農地、自然の融合した“里山”がある。里山の生態の多様性が原始の自然に比べて、さらに豊富だ。私の大学ゼミにゲスト講師として来られたNHKのチーフディレクター小野泰洋氏は、「里山は、自然に対する人間の適度な介入がもたらした新しい生態だ」、と言う。
里山は、人間の適度な介入による“人造”と、自然の修復能力という“神がかり”の協働の結果だ。
それに対して、近代都市の建設においては、“人造”の側面が過度に強調され、自然生態との協働が無視された。結果、自然が排除され、都市がコンクリートジャングルとなった。
横山禎徳: 明治神宮の森は、今から90年前にある構想を持って日本中から集めた木を植えた。いまは自然な景観になっているが、元はそうではなかったのだ。また、皇居には昭和天皇専用の9ホールのゴルフ場があったが、2.26事件の時に反乱兵士の行動に大変怒り、もう二度とゴルフはやらないと天皇は宣言した。そのままほっておいたら数十年で自然に返った。もはやどこがティーグラウンドでどこがグリーンだったか分からないらしい。そこにトンボもカエルも戻って来た。自然の回復力は驚異的だ。もっとすごいのは、人類が地球から消え、環境破壊を止めると300年程度で緑豊かな地球に戻るらしい。この回復力を理解し、うまく活用したデザインはできると思う。しかし誰もまだやっていない。
周牧之:数年前、私が中国江蘇省鎮江市に100万人規模のニューシティのマスタープランを作った。モジュールシティという開発コンセプトを打ち出し、100万人口をいくつかのモジュールに分け、モジュールごとに一定の比例で生態空間と人工空間が存在し合うようにして、路面電車でそれらのモジュールをつなげるようにした。
私の理想は、里山のようなコンセプトを都市の計画に組み入れることだ。
横山禎徳:イギリスの田園都市にしろ、オーストラリアの首都キャンベラにしろ、率直に言うと、美しいがなんだかつまらないところだ。なかなか成功したとは言い難い。自然と融合させながら魅力的な場所を作るのは難しい。
周牧之:里山が絶妙なのは、人間の介入と自然回復力の協働で生み出すバランスだ。このバランスは、時に人の想像を超える新しい生態系を作り出す。ここでのカギは、人工介入の“適度”と“持続”である。近年、農村人口の減少によって、一部の里山が無人化され、自然に戻った。問題は、生物多様性においてこれらの戻った自然が往々にしてそれ以前の里山に比べ、劣ることだ。
都市の中で自然を排除せずに、自然な空間があることは大切だ。さらに重要なのは、都市の中の自然のあり方だ。自然と人間の絡み合いは欠かせない。例えばいま、北京は周辺の人口をどかしながら、大規模な緑地を作っている。便宜的に遠いところに緑を植えていて、都市民にとっての憩いにはあまりなっていない。人間のいないところに緑地を広げても面白くない。適切な距離、システムバランスが必要だ。