分断と対立もたらす「戦略的連携」
「一帯一路」の提唱から10年を考える時に、これほどのアジア・太平洋の情勢変化を目の当たりにするとは、なんとも言葉を失う。今年8月、ワシントン郊外にある米国大統領の山荘キャンプデービッドでおこなわれた米日韓首脳会談である。
「日米同盟と米韓同盟の戦略的連携を強化し、日米韓の安全保障協力を新たな高みへ引き上げる」と謳い上げた今回の「首脳会談」、米日韓三か国による安保体制の強化によって新たな軍事的枠組みを作り、米国をハブとした「準三国同盟」というべき「戦略的連携」をもって中国に対峙することを明らかにした。東アジアはもちろんアジア・太平洋のみならず世界に分断と対立、緊張を持ち込み先鋭化させるものであり、歴史を逆回しにするものだと言わざるをえない。これが米日韓の「新時代」あるいは「新たな高み」というのだから深刻である。
しかし、「一帯一路」イニシアティブという視界に立つと、これこそ現在の世界を象徴的に物語る「事態」だとも言える。中国が提唱し地球規模で広く翼を広げる「一帯一路」イニシアティブが、すでに、次代の新たな世界秩序を生み出す胎動をけん引する「インキュベーター(揺籃器)」として脈動していることの証左と言えるからである。すなわち、「非米世界」が世界の大勢を占め、根底から揺らぐ米国中心の「旧秩序」を、同盟諸国をフルに動員してなんとしても守ろうとする米国に残された最後の「よりどころ」(のひとつ)が、米日韓の首脳会談となって表出したということである。
世界史的転換期にあっては、こうしたさまざまな葛藤や困難をのりこえてこそ新たな世界がひらけるということであり、そのことを、いま、私たちは経験しているのだということを、まず、知っておかなければならない。
地理的広がりから「質の高い発展」へ
「一帯一路」イニシアティブは、2013年9月、習近平主席がカザフスタンのナザルバエフ大学で演説した際に「シルクロード経済ベルト」建設を提唱し、10月にインドネシアの国会で「21世紀海上シルクロード」の構想を語り、引き続いてバリ島で開催されたAPEC非公式指導者会議で、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の構想を示したことにはじまる。その後、2014年12月、中国は400億ドルを拠出して「一帯一路」プロジェクトに資金提供する「シルクロード基金」を創設。2015年3月には国家発展改革委員会、商務部、外交部が「シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロードを推進し共に構築する構想と行動」を公表し、「一帯一路」イニシアティブを推進する態勢を整えた。
以来10年、ユーラシア大陸から東南アジア、アフリカ、中南米、カリブ諸国、太平洋島嶼諸国そして世界の海へと、地球儀をぐるりと包み込む多ルートに地理的空間を広げ「一帯一路」イニシアティブは進化してきた。
今年6月、天津で開催された2023年夏季ダボス会議の「一帯一路イニシアティブの未来」対話会において、「一帯一路」共同建設は、すでに世界の4分の3を超える国と主要国際機関を集めていることが報告された。また、第14期全国人民代表大会第1回会議で採択、承認された「22年度経済社会発展計画の執行状況と23年度計画案」によると、2020年末時点で、150カ国と32の国際組織と200あまりの「一帯一路」共同建設協力文書に調印したことが記されている。その後の時間的経過を考えれば、この数はさらに増えていることは想像に難くない。
また、中国と欧州を結ぶ国際貨物列車「中欧班列」の運行では、累計6万5000本以上が運行され、標準コンテナ600万個を超える貨物が欧州25か国の200あまりの都市に届けられたことが報告されている。ちなみに、今年7月末、今年の「中欧班列」運行本数が1万本に達したことが中国メディアで伝えられた。「中欧班列」を通じて、中国と「一帯一路」沿線国の経済・貿易関係が日増しに発展していることが伝わってくる。
グローバル・ガバナンス改革をリード
こうした成果の上に「23年度計画案」では、「一帯一路」共同建設提案10周年に際し、「一帯一路」共同建設の「質の高い発展」を推し進めるとして、今後取り組む目標、プロジェクトについて詳細に述べている。「質の高い」という表現が指し示すものは実に多岐、多領域にわたるが、「デジタルシルクロード」の推進が位置づけられたことと、「グローバル•ガバナンス体系の改革」が重要な位置づけを持つことになったことは忘れてはならない。
2017年10月に開催された第19回中国共産党全国大会における政治報告で習近平総書記は、中国がグローバル・ガバナンス体系の改革に積極的に関与することで国際秩序の変革をリードすることを提起し、「共に話し合い、共に建設し、共に分かち合う」というグローバル・ガバナンス観に立って、開発途上国の代表性と発言権を拡大することで、グローバル・ガバナンス体系をより公正で合理的な方向へ発展させることをめざすことを語った。すなわち、中国が世界秩序の変革をリードしていくことを世界に向けて明確にしたのである。さらに、「一帯一路」建設において対外開放をさらに進め、国際協力を積極的に促進して、政策面の疎通、インフラの相互接続、貿易の円滑化、資金の融通、民心の通い合いの実現に努め、「新たな国際協力プラットフォーム」を構築して共同発展の新たな原動力とすることを鮮明にした。
このように、「一帯一路」イニシアティブは日々進化し、動いている。ゆえに、動態的にとらえなければその実像を理解、認識することはできず、さらに、「質の高い」と語られることの意味を深めることがなければ、「一帯一路」の現実、実体は見えてこない。「質の高い」という言説が意味するところをどこまで深くとらえることができるかが、「一帯一路」イニシアティブと中国のこれからを見ていく重要なカギとなるのである。
次の10年、「人類運命共同体」へ
過去10年の経験から学びとらなければならないことは、「一帯一路」イニシアティブは「人類運命共同体」の実現に向けての重要な礎となる関係にあるということである。少し長くなるが、その今日性を示す習近平主席の言説を引いておく。
「人類運命共同体とは、文字通り、すべての民族、すべての国の前途と運命が緊密につながり、力を合わせて困難に打ち勝ち、喜びも悲しみも分かち合い、我々が生まれ育ったこの星を 皆が仲良く暮らす大家庭となるようにし、世界各国の人々の素晴らしい生活への憧れが現実のものになるように努めることである。
――われわれは恐怖と無縁の、普遍的に安全な世界を築くことに力を入れなければならない。 人類文明の発展の歩みを見渡すと 幾千年来、人類はずっと恒久の平和を待ち望んできたが、戦争が遠ざかることはなく、人類はずっと戦火の脅威に直面している。人類は同じ地球に生存しており、一国の安全は他国の安全を犠牲にして築かれてはならず、他国が直面している脅威が自国の試練になる可能性もある。日増しに複雑化、総合化して行く安全保障上の脅威に直面して、一国だけ単独で闘ってはだめで、武力を盲信してはなおさらいけない。われわれは共同・包括・協力・持続可能を旨とする新安全保障観を堅持し、公平・正義・共同建設・共同享受の安全保障の枠組みを構築し、戦争を誘発する根源を共に取り除き、銃砲によって追い払われた民衆を共に救い出し、戦禍に巻き込まれた女性や子どもを共に保護し、大地を平和の光で広く照らさせ、一人一人に平和で穏やかな暮らしを享受させなければならない」(「習近平国政運営を語る」第三巻第17章「手を携えて人類運命共同体を構築する」)
われわれが現在の世界といかに向き合うべきなのか、その時代性、今日性がここに尽くされている。
新たな世界像めざす世界と向き合う
メディアにおいてしばしば「新冷戦」という言葉が登場するようになっているが、中国は一貫して「新冷戦」ということばを「拒み」続けている。「経済安全保障」を掲げ中国に対する制裁、封じ込めを強めるばかりの米国およびそれにつき従う日本などの国々の施策に分け入れば、実質的には、かつての米ソ冷戦時代の「規制」と同等もしくはそれ以上という厳しい状況も生まれている。また、台湾をめぐる米・日の立ち居振る舞いに鑑みれば、まさに「冷戦」状況を彷彿とさせるばかりと言える現状である。しかし、中国は、かつてのような世界を二分した分断と対立の構図を再現することは断固として拒み、世界の人々と手を携え、平和と共助、協力のなかで新たな世界像を開いていく道を選択している。「一帯一路」が多ルート、多ジャンル・領域で世界に翼を広げているがゆえにできることだと言えるだろう。すなわち、世界の大きな流れは、新たな世界秩序を求めて動いているという確信にもとづいて、中国は「新冷戦」というとらえ方には与しないと理解すれば、世界の現在がくっきりと見えてくるのである。
「一帯一路」提唱から10年を振り返る営みは、われわれに、世界と向き合う深い思考を求めてくる。それは、世界史的な転換期を生きるわれわれにとって、「一帯一路」イニシアティブへの理解と認識を深めることにとどまらず、「一帯一路」に参画することで「共に考え、共に努力し、共に歩む」ことが何よりも重要な営みとなることを教えるものでもある。
古の時代、はるかギリシャ、ローマ、アラブ世界からシルクロード、中国を経て文物、文化が渡来し、交流を深めた豊かな精華が収納されている正倉院御物を挙げるまでもなく、日本は、「一帯一路」の終着地であり、始発の地であった。にもかかわらず、いまだ「一帯一路」への参画に至っていない。このことを今こそ思い起こし、世界とそして中国と向き合う感性、見識を深くする時にあるということを、しっかり肝に銘じる必要がある。日本が、ひたすら米国と共に中国との対決、中国封じ込めの道を歩む愚かさを痛感するとともに、この状況を根底から変えていく覚悟が必要になると切に思う。
さて、問題は、日本のわれわれがどう歩むのかである。
人民中国インターネット版より